番外地の廃ビル。
そこの一部屋に、時計に囲まれた詩人がいる。
詩人は、どういうわけか時計に急かされながら詩を書くのが日課だが、
今に限っては詩を書いていなかった。
詩人は時計に囲まれている。
コチコチカチカチと。
それはいつもと一緒だが、
詩人は、どこかからか持ってきた、小さなテレビを見ている。
ご丁寧にビデオデッキもある。
どうやらどこかからか電源を取っているらしいが…
詩人はテレビに見入っていた。
映し出されるのは、
ホラー映画。
これは、詩人が気分転換にと、
二番街のレンタルビデオ屋で借りてきたものだ。
レンタルビデオ屋は、
彼が詩人であることを知ると、
「じゃあ、いつまで借りててもいいですから、ビデオ見て感じたことを詩にしてくれませんか?」
と、言った。
そして、詩人はビデオを見ている。
コチコチカチカチと時計に急かされながら、
レンタルビデオ屋はいつまで借りていてもいいと言ったが、
詩人自身が急かされている。
…まぁ、詩人が急かされているのは、いつものことだが。
そして、絶叫や、恐怖の引きつり顔や、重苦しい沈黙などが並んだビデオが終わり、
詩人は早速詩を書きにかかった。
「黒い快感と不快、解放の快感と恐怖の不快…その濁流は混濁し、暴れた流れとなり、最後に放心を残す…」
詩人はここまで書き、
なんだか違うという風に考え込んだ。
コチコチカチカチ。
「黒い快感と不快…」
詩人はどうしてもそこから離れられないらしい。
そして、詩人は時計に急かされ悩みながら、
どうにかこうにか詩を書き上げたらしい。
ビデオを取り出すと、
一つの詩と、ビデオを持って、
時計の部屋をあとにした。
詩人が気分転換になったか、
それは詩人にもわかっていないと思う。