これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
赤く細かい細工の彫られた扉の向こうの世界の物語。
彼女は混乱していた。
理想的な恋人であろう人を前に、
どうしていいかわからず、混乱していた。
そんなところに、
バタン!
と、扉が開くような音がした。
そして、
「待てや!」
と、男の声がした。
やがて、彼女の足元に、
小さな狐が一匹やってきた。
そして、それを追って男がやってくる。
陰陽マークのシャツと、
黒の釣鐘マント。
長めの髪は後ろでまとめている。
狐は、しばらく彼女の足元で隠れていた。
そして、男は、
「おっかしぃなぁ…どこいったんやろ…」
と、あたりをきょろきょろする。
そして、あたりをきょろきょろした男が、何かに感づいたらしい。
「こいつは…」
と、呟く。
狐は、男が何かに気を取られている隙に逃げ出す。
男は狐の気配を見逃さなかった。
「待てや!」
と、追いかける。
狐と男の闖入者は、彼女をほったらかして追いかけっこをする。
そして、彼女は見た。
狐が理想的な恋人をすり抜けていくのを。
彼女は、目の錯覚かと思った。
しかし、男も理想的な恋人をすり抜けていく。
彼女は何が何なのかさっぱりわからなくなった。
いったい何が起きているのか。
突如現れた狐と男は何者なのか。
やがて、
「よっと、捕まえたで」
と、空間の隅っこで、男が狐を捕まえた。
そして、男が彼女のもとにやってくる。
「あんたの空間…混乱させてもうたな」
自分の空間?
この男は何を言っているのだ?
陽炎のような理想的な恋人。
そして、理想的な恋人以外見えなかった空間…
「混乱して…それでもわかりかけてるんやろ?」
彼女はおぼろげに答えに行き着こうとしていた。