ヤジマとキタザワは、
斜陽街一番街のバーにやってきた。
玩具屋に頼まれた、緑色の細工の入ったおもちゃを届けに来たのだ。
入口を開けると、
来客を知らせるベルが、カランコロンと鳴る。
「いらっしゃいませ」
と、カウンターの男が言った。
見たところ、大きく繁盛している訳でもないが、
寂れている訳でもない。
ゆったりした時間の流れるバーだ。
そして、店のものと思わしき男は、
さっき挨拶をしたカウンターの男だけだ。
玩具屋の言うバーのマスターなのだろう。
ヤジマはカウンター席に座る。
キタザワも隣りに座る。
「ギムレット」
ヤジマが注文する。
「あ、ファジーネーブルを…」
と、取ってつけたようにキタザワが注文する。
「かしこまりました」
と、バーのマスターがカクテルを作り出す。
やがて、注文したカクテルが並べられる。
ヤジマは少しギムレットを飲み、
そして、
「これ、玩具屋とか言うやつから預かってきた」
と、緑色のおもちゃを取り出した。
ギムレットの隣りに置くと、優しい緑色が際立つ。
「あんたのか?」
ヤジマが聞けば、
「まぁ…今は私のものです…」
と、バーのマスターは曖昧な返事をした。
そして、バーのマスターはおもちゃを受け取り、
酒瓶の並んでいる棚の隅に、ひっそりとおもちゃを置いた。
ヤジマがグラスを空ける。
「それじゃ、そういうことだ。代金は?」
「いいえ…これを届けてもらっただけで十分です」
「そっか…じゃあな」
ヤジマが出て行こうとし、
キタザワが追いかける。
「…ちょっと、待ってください」
バーのマスターが何かに気がついて呼びかける。
「何だ?」
と、ヤジマが振り向く。
「いえ…ちょっと気になったことが…その鞄…」
「!」
ヤジマがさっと、宝石の詰まった鞄を隠す。
「いえいえ…取ろうとしている訳ではありませんが…もう、あなたたちには不要なんではないですか?」
「不要?」
「もう、要らないんじゃないですか?…それだけです。呼び止めてすみませんでした」
そして、バーのマスターは、黙々とグラスを拭いた。
ヤジマとキタザワがバーから出てくる。
「これからどうします?」
キタザワが聞けば、
「こいつら、処分するか」
と、鞄を示す。
「え!」
「適当なところ探そう。行くぞ、キタザワ」
困惑したキタザワをよそに、
ヤジマは何か吹っ切れていた。