探偵は暇をもてあましていた。
依頼がない時は大抵こうだし、
そもそも、依頼は少ないほうだ。
探偵は、探偵事務所で寝るのにも飽きたし、
助手の入れてくれるお茶も…美味だが飽きた。
探偵はそんなときは斜陽街をふらつくことにしている。
身体と勘をなまらせるよりはいい。
いつものコートとポケットに入ったタバコを確認すると、
探偵は斜陽街に出て行った。
探偵が斜陽街の路地を歩いていると、
何か、黒い不定形の物体がすごい勢いで駆けていくのを見た。
「なんだありゃ…」
と、探偵が呟くと、
「どいてどいて!」
と、女の声がした。
探偵はその声に圧倒されるようにどいた。
声の主は電脳娘々だった。
電脳娘々は、まっすぐに黒い物体を追いかけ、駆けていった。
探偵はそれを見て、
ふぅとため息をつくと、
「忙しいやつは忙しいものだ」
と、呟いた。
大体、斜陽街の連中が大忙しということは少ない。
電脳娘々もたまたまなのだろう。
しかし、あの追いかけられている黒い物体。
あれは何かいやな感じがしたなと探偵は思った。
「騒ぎになるな…きっと…」
探偵は呟くと、
また、斜陽街の路地を歩いた。
あてはないが、
あとで番外地の神屋にでも行こうかと思った。
勘が示しているような気がしたのだ。
今日も斜陽街は斜陽街だ。
騒ぎがあっても斜陽街。
いろいろと受け入れてくれるものだ。
「さぁて、電脳娘々のお手並み拝見」
探偵の勘は成功を示しているが、
それまでの過程は、
どうなるかよくわからなかった。
それも面白いと思った。
「どれ、一回りしたら神屋にでも行くかな」
探偵はそう言うと、
あてもなく斜陽街を歩き出した。