一番街の音屋の主人は、
今日も音の波に揺られている。
音屋は音以外のものを受け付けない。
音以外のものが入ったものは音屋に戻ってこない。
それでも、音の波に紛れて何かが入り込んで来ることはあるらしい。
音屋の主人はうとうととする。
様々のイメージが交錯する夢を見る。
昇る太陽と少女、
山に分け入る少年、
空飛ぶ魚、
空っぽの存在、
そして真っ赤な…赤い赤いイメージ。
音屋の主人が、
何かに落っこちたように目を覚ます。
階段を踏み外したような感覚。
いろんなものが交錯した気がする。
音屋の主人は、
太陽が昇ったり沈んだりする音を感じた。
その音に紛れて、イメージが紛れ込んだのであろうと思った。
何かが紛れ込むと音だけではなくなる。
音屋にしてみれば、いらないものなのだが、
誰かが拾うこともあると思い、
音屋は音の波の店内から、
紛れ込んだイメージを追い出した。
誰かが拾うこともあるだろう。
それとも、誰かのイメージが、紛れ込んだのかもしれない。
やれやれ、と、いうように音屋は首を竦め、
また、音の波に揺られた。
音屋の主人にしてみれば、
それはまるでゆりかご…
いや、それより前の、胎内の記憶のような…
そんな揺らぎを音波として感じているようだ。
生まれる前の記憶…
そんなものは持っていない。
けれど、音屋の主人には、
あるいは、音の波がその記憶に近いかもしれないと感じていた。
ぼんやりと外と隔絶された、
血液の流れる音と、確かに聞こえる鼓動…
おや、と、音屋の主人は思い当たる。
音だけではないなと、ようやく感じる。
そして、胎内のイメージを、やっぱり音屋の主人は追いだし、
また、音だけの空間に揺られた。
音屋は音が似合っている。