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第114話 休憩

酒屋は扉屋で休憩をしていた。

仕事はいろいろあるのだろうが、

斜陽街はゴミゴミした路地が多く、

歩き回るだけには疲れる。


とにかく、酒屋は弟子に店番をまかせて、

一人ぼんやりと扉屋で休憩をしていた。


扉屋は扉を作ることに専念している。

酒屋は扉ではなく、一応壁にもたれかかり、

扉屋が扉を作るのを見ていた。


やがて、酒屋が手酌で酒を飲んでいると、

「やぁ」

と、扉屋の普通の出入り口から見慣れた顔が入ってきた。

「夜羽…」

「邪魔するよ。酒屋さんはサボり中?」

「休憩中や」

「一人で手酌も寂しいでしょう」

「まぁな、どや、一杯」

「強いのは勘弁」

「安心しぃや、弱いのもある」

そして、扉屋の主人をほったらかして、

ささやかな酒盛りが行われた。


「ここはいろんなところに通じていますから…見ているとなんだか、わくわくするんですよね」

「危険なのもあるんやけどな」

「それが扉屋の醍醐味ですよ」

「そんなもんかなぁ…」


酒屋がふと、何か物音に気がついた。

物音の方向を見れば、

両の手のひらでおさまるような、

小さな狐がうろうろしている。

「なんやあれ?」

「どうしました?」

「いや、狐がおるん」

「へぇ…どこかから紛れ込みましたかね」

「待ってろ、今捕まえたる」

酒屋が扉屋の店内で狐を追いかけ回す。

夜羽はそれを面白そうに見ていた。

もっとも、帽子のふちで目は見えない。

そして、緑の葉の描かれた扉から、少年が覗き込んでいる。

「あの狐の飼い主?」

夜羽がたずねると、少年は頷いた。

「待ってて、今あの人が捕まえてくれるらしいから…あ…」


酒屋は狐追いかけに夢中になって、

赤く細かい細工の彫られた扉に入っていってしまった。

「あーあ…」

と、夜羽は言うが、少年に向き直り、

「まぁいいや、しばらくこっちで話していれば帰ってくるよ」

と、少年と話をはじめた。


酒屋の休憩は、どこかへ行ってしまった。

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