魚のシキと、異邦人のクウは、斜陽街を歩いていた。
二番街のあたりだろうか。
よくしゃべるシキと、頷くことが多いクウだったが、
それなりのコンビになっているようだった。
彼等が路地を歩いていくと、
鎖を持った女性が向こうから歩いてきた。
人とぶつかることはよくない、と、
クウはよける。
「失礼」
と、女性は鎖を持って通り過ぎようとする。
表情は薄い。
シキの目に、女性の顔より、鎖がうつる。
そして、
「ちょっと待った!」
と、シキが女性に声をかけた。
「何か?」
女性が振り向く。
「お姉さん、その鎖、色がついてるね?」
表情の薄い女性の、目が見開かれる。
「わかるの?」
「ああ、俺は色を探している魚のシキだ。あ、こいつはクウ」
クウがぺこりと頭を下げる。
「そう、私は鎖師と覚えておいて。…で、色があるから何なの?」
「他でもない。その鎖の銀色を俺にくれないか?」
シキが申し出る。
鎖師はまたちょっと驚いたようだった。
そして、ちょっと考え、
「鎖に染み付いた分の銀色だったらいいわ。鎖本来の色は取らないでね」
と、言った。
鎖師の手の鎖から、
染み付いた銀色がシキにゆるゆると移っていく。
そして、鎖師の鎖は、鎖師の納得のいく鎖になり、
シキには、銀色が移った。
「ありがとな、鎖師さん」
「こちらこそ。これで納得のいく鎖になったわ」
鎖師は去っていった。
シキが鎖師を見送ると、
クウがシキをじっと見ている。
「また、俺に触りたいのか?」
シキがそう言えば、
クウは頷いた。
クウがシキに触れる。
クウに鎖の思い出が移ってくる。
何かを自分のものにしたい感じ…
『あの人』は自分だけのもの…
「クウよ、感じているのは多分、独占欲って奴だ。独り占めしたいって奴だろ」
微妙に違う気もするが、クウは頷いた。
そして、シキとクウはまた歩き出した。
クウは、あの時感じた『あの人』とは誰だろうと考えていた。
鎖の思い出とも違う『あの人』とやらは誰だろうと。
シキはクウのそんな違いに一応気がついていたが、素知らぬふりをした。