三番街の教会。
一番街の路地から入っていって、
がらくた横町とは逆の方向にある。
植物に覆われかかっている、
半ば廃墟の教会だ。
そこに、罪の告白をしている女がいた。
女だという事はわかる。
しかし、存在が曖昧だ。
女はいる。
しかし、情報が希薄な感じだ。
女は朽ちかけた十字架の下で跪いていた。
そして、自分の情報を消し去ろうとしていた。
そして、自分であることを消しきれないと気がつくと、
女は涙を流した。
苦しくて、涙を流した。
「どうして…」
廃墟の教会で女は涙を流す。
「あなたがあなたであるからですよ」
不意に入口から声。
女が振り返ると、
そこには、黄色いサロペットに黒いシャツ。
金髪の耳あたりまでの髪、前髪だけ黒く触覚のようにのばしている。
斜陽街の螺子師がいた。
「がらくた横丁から出る時、よくあなたを見るんですよ。これで何度目ですか?」
「何度でも…情報を全て捨て去るまで…」
「見たところ、それは無理なようです」
螺子師は断言した。
「どうして…」
「あなたはあなたであるから、そして、あなたはあなただけではないからです」
螺子師は女の腹を指差す。
「あなただけではない」
女が腹に手をあてる。
「…いのち…」
「そう、命があります」
螺子師は頷く。
女はうなだれる。
「また、重荷を背負わせることに…」
「あなたはあなたであるから。あなたも命も一人ではないから」
「一人じゃない…」
「そう、あなたが悔いているのなら、命のために、あなたでいてください」
「重荷を背負わせたら…」
「心配しているなら、重荷をあなたも背負えばいい。一人じゃないんです。命もあなたも」
螺子師が女の螺子を締める。
少し、女に気力が戻ったようだった。
涙の跡は残っていたけれど。
「…もう、行きます」
女が言う。
「この命が、生まれてよかったと思える場所を探しに…」
女はそう言うと、廃墟の教会を出ていった。
「あなたがですか?命がですか?どちらもですか?」
螺子師は女の背に小さく問い掛ける。
答えはなかったが、
幸せは多い方がいいと思い、
螺子師も教会をあとにした。