二番街の喫茶店、ピエロットの、ギター弾きが、
いつものテーブル席でうとうととしていた。
ギター弾きは夢を見た。
太陽が戸惑っている夢だ。
太陽が昇ることで朝を迎える町は、
太陽が戸惑っているので、朝が来ない。
ギター弾きは、太陽のもとへやってきた。
太陽は少女だった。
ただ、自分が太陽であることを忘れているようだ。
何故昇らなければならないか、
昇るとはどうすればいいのか、
戸惑っていた。
「自分の中の流れを信じるんだ」
ギター弾きはそう言う。
自分の中の流れを感じた、
太陽は次第に輝いていく。
「そう、君なら空にも行けるはず」
夢でなら誘導できる。
「おいで、昇っていくんだ」
ギター弾きが誘導する。
太陽が戸惑いながらついていく。
輝く太陽が町を照らす。
朝がやってきた。
太陽は自分の輝きに満足した。
太陽は太陽であることを思い出した。
そして、ギター弾きに深々と礼をした。
ギター弾きの夢はそこで途切れた。
目が覚めたのだ。
「俺の太陽だった…」
ぽつりとギター弾きが呟いた。
「太陽は遠くで輝いているのがいい」
ギター弾きはピーンと弦を鳴らす。
そして、歌は歌わず、
ピエロットの中で流れるオルゴールの音に合わせてギターを奏でる。
それは美しい響きとなった。
「どこかにいる太陽…太陽に俺の音は届いているか?」
ギター弾きは斜陽街の一角で、
控えめながらも、
どこかにいる戸惑う太陽に向けて、ギターを奏でた。
夢の中のように、
戸惑って昇れない太陽に向けて。
太陽をが昇れるように、
あの町に朝が来るように、
ギター弾きは祈りを込めてギターを奏でた。