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第105話 洗浄

鎖師は、廃ビルから回収した鎖を、

結局、二番街の洗い屋に持ってきた。

鎖師も散々洗ってみたが、

洗い屋ならもしかして…と思ったのだ。


「あら、鎖師さん」

と、人懐っこい笑顔の洗い屋の女性が出迎える。

対する鎖師は表情が薄い。

「これ…洗って欲しいの」

鎖師が鎖を見せる。

「きれいですけど…洗うんですか?」

「ちょっとね…わかる色が染み付いちゃって、洗って落ちないかと思って」

「職人もつらいですね。凡人じゃわからないところが許せないあたり」

と、洗い屋は笑い、

「とにかく、やってみましょう」

と、洗い屋は真剣になった。


洗い屋がガチャガチャ言わせながら鎖を洗う。

鎖師は文句を言わない。

手荒く扱われている訳ではないからだ。

洗い屋はそのあたりエキスパートだから。

しかし、洗い流したその鎖には…

まだ、鎖師の許せない銀色がついたままだった。


鎖師は溜息を短くつく。

「すみません…これ、汚れじゃないみたいです」

「そうみたいね。洗い屋さんが落とせないんだもの」

鎖師はまた短く溜息をつく。

「どちらかというと…何かが凝り固まって吸着したような感じですね…思念とか…」

「誰か持っていってくれるといいわね」

「そんな都合のいい人がいるでしょうか」

「いることを望むわ…これじゃ、使い物にも売り物にもならないし…何より」

「何より?」

「鎖師として許せないの」

鎖師の表情は薄かったが、

洗い屋は、その表情から、

職人気質を読み取ったらしい。

洗い屋は、嬉しそうににっこり微笑んだ。


「とりあえず、誰か持っていくといいですね」

「ここは斜陽街…何だって可能性はあるわ」

鎖師はそう言うと出て行った。


鎖師もデタラメを言った訳ではない。

予感だけは何となくあるのだ。

ただ、漠然としすぎていて、可能性としか言えなかったのだ。


鎖師は、その可能性を待っていた。

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