鎖師は、廃ビルから回収した鎖を、
結局、二番街の洗い屋に持ってきた。
鎖師も散々洗ってみたが、
洗い屋ならもしかして…と思ったのだ。
「あら、鎖師さん」
と、人懐っこい笑顔の洗い屋の女性が出迎える。
対する鎖師は表情が薄い。
「これ…洗って欲しいの」
鎖師が鎖を見せる。
「きれいですけど…洗うんですか?」
「ちょっとね…わかる色が染み付いちゃって、洗って落ちないかと思って」
「職人もつらいですね。凡人じゃわからないところが許せないあたり」
と、洗い屋は笑い、
「とにかく、やってみましょう」
と、洗い屋は真剣になった。
洗い屋がガチャガチャ言わせながら鎖を洗う。
鎖師は文句を言わない。
手荒く扱われている訳ではないからだ。
洗い屋はそのあたりエキスパートだから。
しかし、洗い流したその鎖には…
まだ、鎖師の許せない銀色がついたままだった。
鎖師は溜息を短くつく。
「すみません…これ、汚れじゃないみたいです」
「そうみたいね。洗い屋さんが落とせないんだもの」
鎖師はまた短く溜息をつく。
「どちらかというと…何かが凝り固まって吸着したような感じですね…思念とか…」
「誰か持っていってくれるといいわね」
「そんな都合のいい人がいるでしょうか」
「いることを望むわ…これじゃ、使い物にも売り物にもならないし…何より」
「何より?」
「鎖師として許せないの」
鎖師の表情は薄かったが、
洗い屋は、その表情から、
職人気質を読み取ったらしい。
洗い屋は、嬉しそうににっこり微笑んだ。
「とりあえず、誰か持っていくといいですね」
「ここは斜陽街…何だって可能性はあるわ」
鎖師はそう言うと出て行った。
鎖師もデタラメを言った訳ではない。
予感だけは何となくあるのだ。
ただ、漠然としすぎていて、可能性としか言えなかったのだ。
鎖師は、その可能性を待っていた。