これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
緑の葉の描かれた扉の向こうの世界の物語。
少年は狐を追いかけ、
どんどん人里離れたところを走っていった。
やがて、上り坂が多くなる。
人家は見えなくなってきていた。
どうやら、山の中を走っているようだ。
少年は、帰りのことを、ちらと考えたが、
目下、狐を捕まえないといけないので、
少年はどんどん山の中へ入っていった。
細い、黄色い土の山道を、
狐と少年が走る。
山から誰かが下りてきた。
少年と狐はその人をよけて走っていく。
少年がその人とすれ違う時、
少年は確かに言葉を聞いた。
「扉まで行って、鳥篭をもらうんだ」
少年は、はたと立ち止まってしまう。
(扉?鳥篭?)
少年が立ち止まったのに気がつき、
狐も立ち止まる。
少年が振り返ると、
すでに人影はなかった。
狐と少年は、しばらくぼんやりとしていた。
そして、狐と少年が、追いつ追われつだったことを同時に思い出す。
また、走り出した。
もう、ほとほと山の中の道。
狐はどこまで行くのだろう。
不思議と狐と少年に疲れはなく、
どんどん走っていけた。
夢の中で走っているようだった。
手のひらサイズの狐が、
追いつけない速さで…でも、見失わない程度の速さで…
そんな風に走るのも、
少年からすれば何か夢の中を走っているようだった。
これを、夢中というのかどうか…
狐と少年にはどうでもよかった。
やがて、黄色い土の道の果て、
緑の葉の描かれた扉が、少しだけ開かれてぽつりと立っている。
狐はするりと、そこへ入っていった。
少年は、狐のようにいきなり山の中にあらわれた扉に入る勇気はなく…
そっと、扉の中をのぞいた。
風が吹いた。
扉の中は、扉だらけだった。
そして、人影があった。