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第104話 山道

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

緑の葉の描かれた扉の向こうの世界の物語。


少年は狐を追いかけ、

どんどん人里離れたところを走っていった。


やがて、上り坂が多くなる。

人家は見えなくなってきていた。

どうやら、山の中を走っているようだ。

少年は、帰りのことを、ちらと考えたが、

目下、狐を捕まえないといけないので、

少年はどんどん山の中へ入っていった。


細い、黄色い土の山道を、

狐と少年が走る。


山から誰かが下りてきた。

少年と狐はその人をよけて走っていく。

少年がその人とすれ違う時、

少年は確かに言葉を聞いた。


「扉まで行って、鳥篭をもらうんだ」


少年は、はたと立ち止まってしまう。


(扉?鳥篭?)


少年が立ち止まったのに気がつき、

狐も立ち止まる。

少年が振り返ると、

すでに人影はなかった。


狐と少年は、しばらくぼんやりとしていた。


そして、狐と少年が、追いつ追われつだったことを同時に思い出す。

また、走り出した。


もう、ほとほと山の中の道。

狐はどこまで行くのだろう。

不思議と狐と少年に疲れはなく、

どんどん走っていけた。

夢の中で走っているようだった。

手のひらサイズの狐が、

追いつけない速さで…でも、見失わない程度の速さで…

そんな風に走るのも、

少年からすれば何か夢の中を走っているようだった。

これを、夢中というのかどうか…

狐と少年にはどうでもよかった。


やがて、黄色い土の道の果て、

緑の葉の描かれた扉が、少しだけ開かれてぽつりと立っている。

狐はするりと、そこへ入っていった。

少年は、狐のようにいきなり山の中にあらわれた扉に入る勇気はなく…

そっと、扉の中をのぞいた。


風が吹いた。


扉の中は、扉だらけだった。

そして、人影があった。

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