斜陽街の一角で知り合った、
色のない魚の『シキ』と、空っぽの異邦人の『クウ』は、
思うように斜陽街をふらついていた。
そして、斜陽街の路地の一角で、
黒い人影と、クウがすれ違った。
ぼんやりしたクウが黒い人影にぶつかってしまう。
「すまない」
と、人影の方が謝った。
クウはよくわかっていない。
「こっちこそすまねぇ、おい、クウ、こういう時は謝るもんだ…って、お前空っぽだからわかんねぇんだな」
シキはちょっと呆れたように言った。
そして、シキは人影の持ち物に気がつく。
黒いボウガン。
そして、まじまじと人影を見る。
黒い短めの髪、黒いサングラス、黒いスーツ、あまり背は高くない…
「あんた…何者だ?」
シキがたずねる。
「僕は羅刹。殺意を形にしている者だ」
彼はそう名乗った。
シキは、羅刹の黒ずくめの姿をじーっと見ていた。
そして、
「あんたの黒、少し分けてくれないか?」
と、申し出た。
羅刹も羅刹で、
「構わないよ。以前壊れた思い出の黒をスーツに移したから…それを持っていくといいんじゃないか」
「サンキュ」
と、シキは礼を言った。
そして、スーツから、ゆるゆると黒が移る。
ゆっくりと、シキが黒に染まる。
シキは黒っぽい魚になった。
「少し軽くなったよ」
「こっちは重くなったぜ」
羅刹とシキはそう言って笑いあった。
何もわかっていないクウが取り残されていたので、
シキは、
「俺の身体に触ってみろ」
と、言った。
クウが、シキに触れる。
クウの中に何か流れこんでくる。
心地よいもの、よくないもの…
シキもそれを感じたようだ。
「クウよ。それが、きもちいいってことと、きもちわるいってことだ。お前にとって、いいこととわるいことだ」
シキとクウは羅刹に別れを告げ、
また斜陽街を歩いた。
クウは、斜陽街はきもちいいと感じた。