「珍しいこと」
と、占い屋のマダムは呟くと、
チリンと長い針を鳴らした。
「ここまでみんなの占いの結果が一緒なんて、本当、珍しいわ」
今日は何となく、客が来ないので、
マダムが暇つぶしに、
「斜陽街のこれからを占いましょう」
と、言い出し…
そして、結果がみな一緒なのだ。
「これから、斜陽街に様々のことが起きる」
「これで、スカ爺さんのところも同じだったら…笑えないわね」
そう言いながら、マダムは楽しそうだ。
「しかし、漠然としながら一緒というのも…なんだか気味が悪いですね」
「そうそう…なんだか、はっきりとしてくれないけれど、何かが起こる、みたいな…」
占い師達が口々に言う。
「それも楽しいわ…何かが起こるって素敵じゃない」
くすくすとマダムは笑う。
「何が起きるんでしょうねぇ…」
「思うほど大したことじゃない可能性もありますね」
「漠然と、何かが…」
おしゃべりをはじめる占い師達。
「占いは絶対ではないわ…」
けだるげにマダムが遮る。
そして、針をチリンと鳴らす。
「絶対じゃないから、私はここのマダムをしているの」
マダムは微笑んだ。
「ねぇ…」
マダムが艶然とした微笑みを浮かべる。
こういう時は悪だくみをしている、と、占い師達はわかっている。
「さぁ…持ち場に戻りましょうか」
「そうしましょうそうしましょう」
「お客がいつ来るかわかりませんしね…」
占い師達が持ち場に戻ろうとする。
と、マダムがわざと、カシャン、と、針を鳴らす。
占い師達の足が止まる。
「ねぇってば」
マダムは穏やかに言っている。
しかし、目が笑っていない。
「…何でしょう?」
勇気ある占い師がたずねる。
「誰が斜陽街の出来事に巻き込まれるか、占ってみない?」
「誰がと言っても…」
占い師が口篭もると、
「どうせ暇なんですもの…ねぇ?」
明らかにマダムは悪巧みしている。
変わった卦が出た人間を、コレクションする気でいる。
「あ、あの…」
占い師が何か言おうとしたところに…
お客が一人やってきた。
いたって普通のお客だが、
占い師達は飛ぶように持ち場に戻っていった。
マダムは浅く溜息をついた。
が、変わった卦の人間はこれからも来るだろうと思うと、
楽しそうに針をチリンと鳴らした。