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第102話 針

「珍しいこと」

と、占い屋のマダムは呟くと、

チリンと長い針を鳴らした。


「ここまでみんなの占いの結果が一緒なんて、本当、珍しいわ」


今日は何となく、客が来ないので、

マダムが暇つぶしに、

「斜陽街のこれからを占いましょう」

と、言い出し…

そして、結果がみな一緒なのだ。


「これから、斜陽街に様々のことが起きる」


「これで、スカ爺さんのところも同じだったら…笑えないわね」

そう言いながら、マダムは楽しそうだ。

「しかし、漠然としながら一緒というのも…なんだか気味が悪いですね」

「そうそう…なんだか、はっきりとしてくれないけれど、何かが起こる、みたいな…」

占い師達が口々に言う。

「それも楽しいわ…何かが起こるって素敵じゃない」

くすくすとマダムは笑う。


「何が起きるんでしょうねぇ…」

「思うほど大したことじゃない可能性もありますね」

「漠然と、何かが…」

おしゃべりをはじめる占い師達。

「占いは絶対ではないわ…」

けだるげにマダムが遮る。

そして、針をチリンと鳴らす。

「絶対じゃないから、私はここのマダムをしているの」

マダムは微笑んだ。


「ねぇ…」

マダムが艶然とした微笑みを浮かべる。

こういう時は悪だくみをしている、と、占い師達はわかっている。

「さぁ…持ち場に戻りましょうか」

「そうしましょうそうしましょう」

「お客がいつ来るかわかりませんしね…」

占い師達が持ち場に戻ろうとする。

と、マダムがわざと、カシャン、と、針を鳴らす。

占い師達の足が止まる。

「ねぇってば」

マダムは穏やかに言っている。

しかし、目が笑っていない。

「…何でしょう?」

勇気ある占い師がたずねる。

「誰が斜陽街の出来事に巻き込まれるか、占ってみない?」

「誰がと言っても…」

占い師が口篭もると、

「どうせ暇なんですもの…ねぇ?」

明らかにマダムは悪巧みしている。

変わった卦が出た人間を、コレクションする気でいる。

「あ、あの…」

占い師が何か言おうとしたところに…


お客が一人やってきた。

いたって普通のお客だが、

占い師達は飛ぶように持ち場に戻っていった。


マダムは浅く溜息をついた。

が、変わった卦の人間はこれからも来るだろうと思うと、

楽しそうに針をチリンと鳴らした。

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