ここは斜陽街番外地の八卦池。
スカ爺がうとうとしながら、八卦池を覗き込んでいる。
池というからには水面があるのだが、
スカ爺はうとうとしても池に落ちることなく、
水面は今日も静かだった。
ざざざ…
水面がノイズのように微かに波立つ。
その音で、スカ爺が目を覚ましたようだ。
「おお…」
と、なんとも付かない声を静かに上げる。
そして、持っていた杖で池をかき回す。
池をかき回すと、ノイズが晴れ、クリアな水面になる。
「シャンジャーか…」
『ああ、俺だ』
池から声がする。
どうやら、通信をしているようだ。
『そっちに邪気が行ったと思うんだけど、それからどうだ?』
「孫が追いかけているようでござる…」
『やっぱりな…で、首尾はどうだ?』
「そちらに連絡がないようであれば、まだ追いかけているのでござろう…」
『そっかぁ…悪いな、そっちに迷惑かけて』
シャンジャーの声は悪びれていない。
そして、スカ爺も気にしていないようだ。
「これより、様々のところで、様々のことが起きる…」
『そりゃそうだろ、生きている以上、どっかで何かはあるさ』
「また風が吹くこともあろう…」
『斜陽街は人が来たり出ていったりすると、風が吹くんだったな』
「そうでござる」
『だったら、年中風が吹いているのか?』
「来ればわかる」
『生憎と、俺は電脳から出られないんでな』
水面からのシャンジャーの声が、くくっと笑った。
『電脳娘々にもメールしといたけど、機会があったら伝えてくれ。こっちの邪気は掃除し終わったと』
「わかった」
ざざざ…
水面がノイズのように波立った。
そして、また、深い池の水面に戻った。
そしてスカ爺は、
また、うとうとと八卦池のほとりで居眠りをしはじめた。
今日も水面は静かだった。