これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
緑の葉の描かれた扉の向こうの世界の物語。
少年は狐を、なおも追っていった。
狐は追いつけないように、
それでも視界から消えないように、
走り続けた。
もう、少年のいた町からはかなり遠くに来てしまっている。
それでも少年は狐を追っていた。
目の前に、石の橋が見えてきた。
狐は何の躊躇もなく渡り、
少年も川の音が下で鳴る、橋の上を渡っていった。
やがて、森の中になる。
日は高い。
さっきの林より木漏れ日が少ない。
山の中にでも向かってしまっているのだろうか。
でも、時々さしこむ木漏れ日は眩しかった。
遠くで、ざぁざぁと音がする。
道はそちらの方へ向かっていた。
視界が開ける、と、
そこの下には流れの速い岩だらけの川が流れ、
川のずっと上に、危なっかしい吊り橋がかかっている。
目の前の道は吊り橋しかなく、
狐はやはり戸惑うことなく吊り橋を駆けていく。
そして、吊り橋の向こう側でちょこんと待っている。
少年は、吊り橋に足をかける。
ぎぃ、と、音がする。
とてもじゃないが、走ったら壊れそうだと少年は思った。
静かに少年は渡っていく。
その間も狐は橋の向こうで待っていた。
ぎぃぎぃ…
きしむ吊り橋を渡っていく。
そして、吊り橋を渡り終えると、
少年はふぅと息を付いた。
帰りはどうしようか、などと考えようとしたが、
その前に狐を捕まえないと、と、思い当たった。
狐は少年の考えを読んだかのように、
素早く走り出した。
少年はまた狐を追っていった。