「やっぱりだめね…」
と、表情薄く、鎖師は言った。
黒い風が去った後、
廃ビルに鎖が残されていると聞き、
一応回収したのだが…
羅刹が壊したのはいいとして、
それはいいのだ。
直せばいいのだ。
しかし、
妙な色が吸着してしまって取れない。
おかげで、直したところが浮いてしまい、
売り物にも使い物にならない。
色々試してみた。
さっきも試していた最中だった。
しかし、羅刹に聞いたところ、この鎖は、
「毒蜜に浸けられていて、神屋の男神様を雁字搦めにしていた」
と言う。
その時に、何かが吸着してしまったのだろう。
毒蜜で腐食した…のは、鎖師が直した。
だから、これは腐食ではない。
汚れともまた違うような気がするが、
やっぱり、洗っても落ちない。
「思いでも染み付いたかしら…」
そういうのならば、酒屋が思いを取ってくれるだろう。
しかし、酒屋は場所に染み付いた思いを酒にするという。
物の思いはちょっと違うだろう。
そもそも、思いかどうかもあやしい。
作った時とは違う、
鎖師の彼女には明らかに違って見える、
鎖のそれとは明らかに違う銀色が染み付いてしまっている。
「これだけ作りこんだのを、捨てちゃうのももったいないわね…」
どうしようかしら、と、鎖師は悩む。
悩んでいるらしいが、
表情にはあまり出てこない。
短い髪の頭がちょっと傾げられるくらいだ。
「色だけ持っていってくれるといいんだけど」
色だけ。吸着した色だけ。
「そんな事、ある訳ないわね」
鎖師は自嘲すると、
「さて、どうしようかしら…」
と、目の前の色を吸着した鎖を眺めた。
傍目にはきれいな銀色なのだが、
鎖師はどうも許せないらしかった。