「相変わらず、ホラーしか置いとらんな…」
いんちきな大阪弁を喋るのは酒屋だ。
「はぁ…」
と、気弱に返すのは、
二番街のレンタルビデオ屋だ。
「で、わいをここに呼んだのは何や?」
「斜陽街の名物を見てみたいと思いまして…」
「名物?」
酒屋が怪訝な顔をする。
「思いから酒を作るってやつ。このレンタルビデオ屋の酒を飲みたいな…と、思いまして」
「いつのまに、わいは名物になったんや」
「斜陽街来たら、結構早くに耳にしましたよ。斜陽街名物、思いから作られた酒って…」
「わかったわかった…」
と、酒屋はちょっと呆れながら話を中断させる。
「じゃ、ここの酒作ればええんやな」
「はい、お願いします」
酒屋がぐるりとレンタルビデオ屋の中を見回す。
そして、
「ここがええかな…」
と、ディバッグから小さな…酒屋のこぶしを一回り小さくした程度の…瓶を取り出す。
「ここはまだ出来たばかりやからな。あんまり量はできへん。そこんとこ了解しぃや」
レンタルビデオ屋は頷いた。
酒屋が小瓶を手に持ち、肩からまっすぐ前に腕を伸ばし、そこでぴたりと止める。
酒屋は目を閉じて待つ。
レンタルビデオ屋は、空気が微かに揺らめいたのを感じた。
揺らめきが、酒屋に向かっているような感じを。
ピチョーン
やがて、長いような短いような時間が過ぎ、
酒屋がふうと溜息をつく。
「やっぱり、この瓶でも大きすぎたみたいやな…一滴しかできへんかった」
酒屋がレンタルビデオ屋の前に、
出来たという酒を見せる。
小さな瓶の底、
大きな雫が一滴落ちたような、わずかな酒ができていた。
「飲めますか?」
「酒飲める年やったらな」
「じゃ、飲みます」
レンタルビデオ屋が酒を一滴流し込む。
飲み込むと同時に、
恐怖という恐怖が激流のように流れていき…
叫び声をあげそうになったところで、
あっけなく激流は過ぎ去っていってしまった。
「どないやった?」
引きつっているレンタルビデオ屋に、
ニヤニヤしながら酒屋はたずねる。
「もう、ここの酒は作ってもらわない気がします…」
「まぁ、名物味わったし、それならそれでええわ」
酒屋は、「そいじゃな」と、レンタルビデオ屋を出ていった。
レンタルビデオ屋は、大きく溜息をついた。