これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
雪の結晶の模様の彫られた扉の向こうの世界の物語。
瓦礫に埋もれていた少女を、
少年達は連れてかえり、
その夜。アジトで少女は目覚めた。
「ここは…」
少女はきょろきょろとあたりを見回す。
「ここは俺達のアジトだ。あんたを悪くする気は、とりあえずないから安心してくれ」
「私…」
「とりあえず、『あいつら』の手先でなければな」
「『あいつら』?」
「この町を瓦礫にかえたやつらさ」
少年達がかわるがわる少女に話しかける。
少女は戸惑っている。
「そのくらいにしておけ」
と、割って入ったのはスイだ。
「何もわかってないようなんだから、尋問の様な真似はするな」
「わかった…」
少年達はスイの指示にしたがった。
少女は、スイのことが気になったらしい。
「あなたは?」
と、問い掛ける。
「俺は、スイ。一応こいつらのリーダーをしている」
「私は…私…」
「ん?どうした?」
少女は少し考え、
「私、何て言っていいか、わからない」
スイはちょっとびっくりした。
「名前がないのか?」
「そうみたい。わからない」
「そうか…」
スイはちょっとだけ考え、
「じゃあ、お前の名前はアキだ」
「私、アキ。アキなんだね」
「気に入ったのか?」
「うん」
少女は無邪気に笑った。
風が吹き、外から仲間が帰ってきた。
「収穫は?」
スイがたずねる。
「食料倉庫だったところ見つけた。しばらくは繋げそうだ」
「忘れないうち、地図に書いておけよ」
「了解」
仲間が奥の部屋に行ってしまうと、
アキはスイにたずねる。
「外はどうなってるの?」
「瓦礫の山だ」
スイが簡潔に答える。
「見たい」
アキがそう言うので、スイはアジトから外にアキを連れ出した。
どこを向いても瓦礫の山。
「…大きな傷痕だね」
アキはそう言う。
スイはそんな事考えたこともなかった。
夜風が吹いた。
「寒い」
アキが言うので、スイは自分の上着を貸した。
「あったかい…スイのあったかさとかする」
「よければやるよ。俺はまた瓦礫からいいの探すさ」
「ありがとう」
赤いジャケットを羽織り、
アキはきれいに微笑んだ。