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第90話 上着

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

雪の結晶の模様の彫られた扉の向こうの世界の物語。


瓦礫に埋もれていた少女を、

少年達は連れてかえり、

その夜。アジトで少女は目覚めた。


「ここは…」

少女はきょろきょろとあたりを見回す。

「ここは俺達のアジトだ。あんたを悪くする気は、とりあえずないから安心してくれ」

「私…」

「とりあえず、『あいつら』の手先でなければな」

「『あいつら』?」

「この町を瓦礫にかえたやつらさ」

少年達がかわるがわる少女に話しかける。

少女は戸惑っている。

「そのくらいにしておけ」

と、割って入ったのはスイだ。

「何もわかってないようなんだから、尋問の様な真似はするな」

「わかった…」

少年達はスイの指示にしたがった。


少女は、スイのことが気になったらしい。

「あなたは?」

と、問い掛ける。

「俺は、スイ。一応こいつらのリーダーをしている」

「私は…私…」

「ん?どうした?」

少女は少し考え、

「私、何て言っていいか、わからない」

スイはちょっとびっくりした。

「名前がないのか?」

「そうみたい。わからない」

「そうか…」

スイはちょっとだけ考え、

「じゃあ、お前の名前はアキだ」

「私、アキ。アキなんだね」

「気に入ったのか?」

「うん」

少女は無邪気に笑った。


風が吹き、外から仲間が帰ってきた。

「収穫は?」

スイがたずねる。

「食料倉庫だったところ見つけた。しばらくは繋げそうだ」

「忘れないうち、地図に書いておけよ」

「了解」

仲間が奥の部屋に行ってしまうと、

アキはスイにたずねる。

「外はどうなってるの?」

「瓦礫の山だ」

スイが簡潔に答える。

「見たい」

アキがそう言うので、スイはアジトから外にアキを連れ出した。


どこを向いても瓦礫の山。

「…大きな傷痕だね」

アキはそう言う。

スイはそんな事考えたこともなかった。

夜風が吹いた。

「寒い」

アキが言うので、スイは自分の上着を貸した。

「あったかい…スイのあったかさとかする」

「よければやるよ。俺はまた瓦礫からいいの探すさ」

「ありがとう」

赤いジャケットを羽織り、

アキはきれいに微笑んだ。

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