「まてっ!」
電脳娘々が何かを追っている。
それは、不定形の黒いスライムのようなもの。
かなりの速さで斜陽街を駆けていく。
「くそっ、シャンジャーのやつ…手におえないからこっちによこしたな」
電脳娘々がぼやく。
そう、不定形のあれはシャンジャーが八卦池から送った邪気。
ウイルスとかバグとかの凝り固まったものだ。
とりあえず、斜陽街に来てしまったので、コピーの機能は失われている。
しかし、逃げ足は速いままで、
電脳娘々は、さっきから邪気を追い回していた。
電脳系というものは、大抵形があるものだ。
同じプログラムの流れ、そういったものだ。
この邪気はどうもそうではないらしい。
シャンジャーが邪気と言いまわす理由も、
不定形で周りに迷惑をかけまくる性質から言っているのかもしれない。
しかし、電脳娘々も疲れてはいる。
邪気は黒いスライムの形をしているとは言え、電脳系が斜陽街にやってきた形だ。
対する電脳娘々は、斜陽街では生体系。
生身の身体だ。
どうしても疲れる。
電脳娘々が息を切らしてしまうと、
細い路地ばかりの斜陽街、
邪気はどこかへ行ってしまった。
電脳娘々が溜息をつく。
(電脳世界だったら、あたしの手におえたかも…)
電脳娘々は首を横に振る。
(いや、手におえないからシャンジャーがこっちによこしたんだし…)
がんばってみるか、と、電脳娘々はまた溜息をついた。
取り合えず手がかりを…
電脳娘々は、携帯用の電脳ゴーグルをかけてみる。
斜陽街が電脳化されて見える。
電脳娘々には、電脳系の邪気の痕跡が残って見える。
痕跡を手早く調べてみると、
どうも、あの邪気は不定形な上、何かにとりつく性質もあるらしい。
電脳娘々は、邪気の痕跡をたどり、急いだ。
騒ぎになることは多分止められないだろうが、急いだ。