ヤジマとキタザワは、
鷹の彫られた扉に逃げ込んで、
扉のたくさんあるところへやってきた。
そこでは爺さんが鑿をふるっているだけで。
荒い息が落ち着いたところで、
ヤジマが話しかける。
「おい爺さん」
「…」
「ここは何なんだ?」
「ここは斜陽街の扉屋…」
「しゃようがい?とびらや?」
ヤジマがキタザワを見る。
キタザワも、ちんぷんかんぷんのようだ。
「とにかく爺さん、警察に通報するなよ。行くぞ、キタザワ」
ヤジマは一つだけぽつんとある、
出入り口らしい扉を開いた。
風が吹いた。
ヤジマもキタザワも感じたことのない風が吹いた。
「斜陽街…」
どうやら別の街に来てしまったようだ。
それだけは二人もわかった。
警察が追ってくる気配はなく、
そのかわりに、寂れた街に、雑多な店が並んでいる。
中にはシャッターが下りている店もある。
そんな街を二人でてくてくと歩いた。
「これからどうします?」
「どうするってなぁ…あ!」
ヤジマが何かに気がついた。
「占い屋だってよ。取り合えず何かの道標になるかもしれない」
「当たるも八卦当たらぬも…」
「いいんだよ、どうせ何にもわかんないんだから」
ヤジマが占い屋に入っていく。
キタザワもそれに続いた。
「あら…お客さん?」
占い屋に入った二人を迎えたのは、
オリエンタルな香の香りと、
泣きぼくろが印象的な、色っぽい女性だ。
ファッションショーにでも出てきそうな、ぴったりとした服を着ている。
「変わった卦が出たから…やっぱり変わったお客さんが来たわね…」
やっぱり占い屋だなと二人は思った。
「あたしは『占い屋のマダム』とでも覚えてくれればいいわ…」
「俺達は…」
キタザワが名乗ろうとするのを、ヤジマが制した。
「ばか!ここでもお尋ね者になる気かよ!」
「え、そ、そんな訳じゃ…」
「あら、お尋ね者?…ますます変わっていていいわ…」
マダムの持っていた長い針がきらりと光る。
ヤジマの勘が、危険と叫んでいた。
「失礼します!行くぞ!」
ヤジマはキタザワをつかんで出て行こうとする。
ヒュッ!
針が風を切って、壁に刺さった。
「あたしのコレクションにならない…?」
彼等は振り向かずに占い屋をあとにした。
少し街を行ったところで、噂を聞いた。
占い屋のマダムは、変わった卦のある人間を、動けなくしてコレクションにする、悪い癖があると。
間一髪だったんだなとヤジマは思う。
警察が来なくても、それなりに注意が必要だと、ヤジマは自戒した。