斜陽街の一番街。
寄り添うように、病気屋と熱屋が営業している。
熊のようにもっさりした男の病気屋と、
女と少女の間で時を止めた熱屋。
今日は病気屋が熱屋にやってきていた。
あらかじめ、病気屋の店の方には、
「隣りの熱屋にいます」の、看板を出しておいた。
熱屋はガラスの球状の器の中にある、オレンジのカプセルをもてあそんでいる。
「商売道具だろう。そっとしておけ」
「ん…」
熱屋は病気屋に言われると、
短い返事のあと、カプセルを戻した。
「ねぇ…」
「どうした」
「私もこのカプセルで人を殺せるかな…」
熱屋が虚ろに言う。
「どうしてまた…」
「んー、なんとなく」
「何となくで人を殺すだの言うものじゃない」
病気屋がたしなめる。
「でも、ここにある熱を一度に大量に入れたら…殺せるかな…」
「まぁ、生体系なら間違いなく死ぬな」
「やってみたいと言ったら怒る?」
熱屋が病気屋を見上げる。
「怒る」
「だめ?」
「だめだ」
「どうしても?」
「どうしても」
「けち」
「けちで結構」
そんなやりとりをすると、
熱屋は…虚ろではあるが、笑った。
「どうしてそこで笑うんだ」
病気屋がちょっと呆れたように言う。
「なんだかね、笑う気がしたの。気持ちよくなったの」
病気屋が小さく溜息をつく。
「とにかく、殺すだのなんだのはしないでくれ」
「ん、しない」
熱屋はあっさりと答えた。
熱屋の入口から声がする。
「病気屋さーん、いますかー?」
どうやら、病気屋の客らしい。
看板を読んで来たのだろう。
「はーい。悪いな、また来る」
病気屋は熱屋の頭をなでると、
帰っていった。
「あたたかいね…」
熱屋は、なでられた場所に、そう、感想を漏らす。
「気持ちいい、あたたかさだね」
熱屋はこれは自分の中にとっておこうと思い、
あえて取り出す真似はしなかった。
熱屋が独り占めしたい熱もあるのだ。