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第83話 魚

色を持たない魚が斜陽街に現れたのは、

黒い風が去って、しばらくしてからだ。


大きさは、とりあえず、お寺などにいる鯉を一匹想像していただければいい。

あまり大きくはないし、

認識できない程、小さくもない。

普通の鯉と思えば妥当だ。

色がない以外は。


魚は空を飛ぶ。

でも、あまり高くは飛べない。

せいぜい、人の頭をちょっと飛び越える程度で、

飛ぶスピードも、人が駆け足で走る程度が、限界のようだ。


そんな魚が斜陽街に現れた。

魚の色がないのに見つけたのは、

散歩中の夜羽だった。

ふよふよと魚が飛んでいるらしいのを、

夜羽が見つけて声をかけた。

「魚…ですか?」

「おう、俺は魚だ」

「色がないようですね」

「まぁな、その色を探してここに来たんだ」

「どうしたら色が付くんですか?」

「さぁな、気に入った色が見つかったらくっつけるさ」

色のない魚はそう言って笑ったらしい。


魚は夜羽と一緒にバーに行く。

バーの中に魚の餌などないから、

とりあえず、魚は水でも飲むことにする。

「本当は、空飛ぶのあんまり好きじゃねぇんだ」

ぽつりと魚が言う。

「どうしてですか?」

「飛んでると、涙が見える気がするんだ。涙見せるのは嫌いでな」

「今は見えませんよ」

「今は、な」

魚は笑い、そして、続ける。

「でも、水の中にいたんじゃ、色のない俺は誰にも気がついてもらえない。俺は、色が欲しくて空を飛ぶんだ」


しばらくして、魚は、

「じゃあな、縁があったらまた逢おうぜ」

と、バーをあとにした。


色のない魚がどこへ行くか、

夜羽は興味があったが、

魚を追う役は、他の誰かが相応しいと、

夜羽は魚を追わないことにした。


いずれ、いい色の魚を見る事もあるだろう。

夜羽は楽観的にそう思った。

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