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第80話 瓦礫

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

雪の結晶の模様の彫られた扉の向こうの世界の物語。


ここは、朝の来ない町。

暗い瓦礫の中で、少年達は暮らしていた。

アジトはあったが、やっぱり瓦礫の中だった。

ここは以前は鉄とコンクリートの町だった。

『あいつら』が、壊してまわった。

少年達の一人が忌々しげに言った。

否定する言葉は誰も言わなかった。


『あいつら』は『あいつら』。

少年達は名前を知らない。

ただ『あいつら』。

町を瓦礫にかえた奴等。


少年達は、瓦礫の中から使えるものを発掘しては、

日々の足しにしていった。

道とも言い難い、瓦礫の中をくぐりぬけ、

使えそうな機械、

使えそうな武器、

あるいは食べ物なども探してまわった。


少年達が少数のグループに分かれて、瓦礫の山を回っていた、ある日のこと。

その少年達のリーダー格の、スイが瓦礫の中を探していると、

放り投げようとした瓦礫に、微かな熱があることに気が付いた。

発火性や熱性の物がある訳ではないらしい。

その微かな熱は、体温が移ったように微かだった。

見通しの悪い瓦礫の中を覗き込んでみる。

(あれは…腕か?)

スイはそれを認めると、

大声で仲間を呼び、手分けして瓦礫の中から人を引っ張り出した。


それはほっそりした少女だった。

汚れているが、傷はなく、生きていた。

ただ、眠っているようだった。


「スイ、どうするんだ?」

「ほっとくわけにはいかないだろ…アジトに連れてかえる」

「こいつが『あいつら』の手先だったらどうするんだよ」

「それだったらとっくに助け出されてるはずだろ。今まで埋まってたったことは、少なくとも無関係だ」

「しかし、よく生きてたよな」

「まったくだ」


スイは少女をおんぶして、

仲間とともに帰路についた。


スイの背中で、少女はまだ、夢の中にいた。


瓦礫から、少女は生まれた。

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