これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
雪の結晶の模様の彫られた扉の向こうの世界の物語。
ここは、朝の来ない町。
暗い瓦礫の中で、少年達は暮らしていた。
アジトはあったが、やっぱり瓦礫の中だった。
ここは以前は鉄とコンクリートの町だった。
『あいつら』が、壊してまわった。
少年達の一人が忌々しげに言った。
否定する言葉は誰も言わなかった。
『あいつら』は『あいつら』。
少年達は名前を知らない。
ただ『あいつら』。
町を瓦礫にかえた奴等。
少年達は、瓦礫の中から使えるものを発掘しては、
日々の足しにしていった。
道とも言い難い、瓦礫の中をくぐりぬけ、
使えそうな機械、
使えそうな武器、
あるいは食べ物なども探してまわった。
少年達が少数のグループに分かれて、瓦礫の山を回っていた、ある日のこと。
その少年達のリーダー格の、スイが瓦礫の中を探していると、
放り投げようとした瓦礫に、微かな熱があることに気が付いた。
発火性や熱性の物がある訳ではないらしい。
その微かな熱は、体温が移ったように微かだった。
見通しの悪い瓦礫の中を覗き込んでみる。
(あれは…腕か?)
スイはそれを認めると、
大声で仲間を呼び、手分けして瓦礫の中から人を引っ張り出した。
それはほっそりした少女だった。
汚れているが、傷はなく、生きていた。
ただ、眠っているようだった。
「スイ、どうするんだ?」
「ほっとくわけにはいかないだろ…アジトに連れてかえる」
「こいつが『あいつら』の手先だったらどうするんだよ」
「それだったらとっくに助け出されてるはずだろ。今まで埋まってたったことは、少なくとも無関係だ」
「しかし、よく生きてたよな」
「まったくだ」
スイは少女をおんぶして、
仲間とともに帰路についた。
スイの背中で、少女はまだ、夢の中にいた。
瓦礫から、少女は生まれた。