これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
赤く細かい細工の彫られた扉の向こうの世界の物語。
男勝りの、二宮かもめ、という女子高生がいた。
スポーツ系の部活動に中学時代から所属し、
高校生になっても続けていた。
かもめは、中性的だった。
黙っていれば、少し整った男と見間違えるくらい。
だから、時折、部活動の試合で、
男子の部に、胸をさらしをまいて出ることもあった。
疑う人間はいたかもしれない。
それでも、表立ってばれることはなく、
そして、かもめの技術は秀でていた。
そんなかもめのところに、ある日他校の男がやってきた。
「二宮っていうやつ…探しているんだが」
彼は女子部員にたずねまわり、
かもめのところへやってきた。
(あれ…以前試合したやつだったかな…)
かもめの方はその程度の認識だったが、
男はかもめを見つけると、
「二宮さん!」
と、駆け寄ってきた。
そして、かもめをまじまじと…特に顔と胸のあたりを…見詰めると、
「やっぱり…」
と、嬉しそうに言った。
「何がやっぱりなんだよ」
かもめがぶっきらぼうに言えば、
「男のふりした女だと、ずっと思っていました…そうだったらどんなにいいだろうと…」
「何で女ならいいんだ。お前、女に負けたのがそんなにいいのか?」
「初恋なんです」
「…はぁ?」
「男かもしれないとは思っていましたが…あなたが女なら障害はありません。好きです、付き合ってください」
かもめは慌てる。
「ちょっと待て。何で付き合うんだ」
「俺が好きだからです」
「こっちの意志はどうなるんだ」
「大丈夫。きっとしばらくすれば好きになります」
確かに男はそれなりに整った顔をしているが…
試合の時の技術も秀でていたが…
それとこれとは話が別だ。
「とにかく、突然言って、ホイホイ付き合えるか。大体こっちには…」
言いかけ、かもめは口をつぐんだ。
こっちには?
自分は何を言おうとしただろう。
かもめはそのまま黙ってしまった。