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第79話 恋人

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

赤く細かい細工の彫られた扉の向こうの世界の物語。


男勝りの、二宮かもめ、という女子高生がいた。

スポーツ系の部活動に中学時代から所属し、

高校生になっても続けていた。


かもめは、中性的だった。

黙っていれば、少し整った男と見間違えるくらい。

だから、時折、部活動の試合で、

男子の部に、胸をさらしをまいて出ることもあった。

疑う人間はいたかもしれない。

それでも、表立ってばれることはなく、

そして、かもめの技術は秀でていた。


そんなかもめのところに、ある日他校の男がやってきた。

「二宮っていうやつ…探しているんだが」

彼は女子部員にたずねまわり、

かもめのところへやってきた。


(あれ…以前試合したやつだったかな…)

かもめの方はその程度の認識だったが、

男はかもめを見つけると、

「二宮さん!」

と、駆け寄ってきた。

そして、かもめをまじまじと…特に顔と胸のあたりを…見詰めると、

「やっぱり…」

と、嬉しそうに言った。


「何がやっぱりなんだよ」

かもめがぶっきらぼうに言えば、

「男のふりした女だと、ずっと思っていました…そうだったらどんなにいいだろうと…」

「何で女ならいいんだ。お前、女に負けたのがそんなにいいのか?」

「初恋なんです」

「…はぁ?」

「男かもしれないとは思っていましたが…あなたが女なら障害はありません。好きです、付き合ってください」

かもめは慌てる。

「ちょっと待て。何で付き合うんだ」

「俺が好きだからです」

「こっちの意志はどうなるんだ」

「大丈夫。きっとしばらくすれば好きになります」


確かに男はそれなりに整った顔をしているが…

試合の時の技術も秀でていたが…

それとこれとは話が別だ。


「とにかく、突然言って、ホイホイ付き合えるか。大体こっちには…」

言いかけ、かもめは口をつぐんだ。


こっちには?

自分は何を言おうとしただろう。


かもめはそのまま黙ってしまった。

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