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第76話 告白

三番街の、うっそうとした樹木の中、半ば廃墟になった教会。

ここには時折、罪の告白をしに来る人影が目撃されている。

誰とは特定できない。

誰とも特定しない。誰も。

罪は誰も抱えている。

それをたまたま誰かが吐き出しに来ただけ。

誰でもいいのだ。

明日は自分かもしれないから。


だから、斜陽街の住人は、

教会に来る人影を見ても、

あるいは見たことも、忘れる術を持っていた。


そして、そんな忘れられた教会の、

一応形を残している十字架の前で、

今日は女が告白をしていた。

誰とは知らない。

形だけ、跪いて、指を組んで。

「あの人に重荷を背負わせた、私が悪いのです…」

と。

「重荷も背負わせる事が出来ると、勘違いをした私が悪かったのです…」

女の顔は見えない。

ただ、女は告白を続ける。

「そう、勘違いの関係でした。そして重荷を背負わせた。それが私の罪です…お願いです、罰してください…」


女の声は泣いている。

「わかっています。斜陽街に罰する神などいないこと…でも、私には罰が必要なのです…」

女は何かを決意したようだ。

「そうだ…私であることを捨ててしまいましょう…罰するものがいないのなら…」


女は跪いたまま、祈りの姿勢を崩さず、うつむいている。

その女から、気配が徐々に消えていく。

女という姿はそのままに、

存在が曖昧になっていく。


「私の意味を消しましょう…」


女は、斜陽街でいうところの、

情報を全て失った者…浮浪者になりかかっていた。

それでも、女の涙が浮浪者になりきらせてくれない。


「どうして…消えてくれないのですか…消したいのに…」


あるいは彼女の情報が消え切らないことが、

彼女に対する罰なのかもしれない。

彼女は出来るだけの情報を教会で消すと、


「また、来ます」


と、言い残し、

斜陽街に出ていった。

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