三番街の、うっそうとした樹木の中、半ば廃墟になった教会。
ここには時折、罪の告白をしに来る人影が目撃されている。
誰とは特定できない。
誰とも特定しない。誰も。
罪は誰も抱えている。
それをたまたま誰かが吐き出しに来ただけ。
誰でもいいのだ。
明日は自分かもしれないから。
だから、斜陽街の住人は、
教会に来る人影を見ても、
あるいは見たことも、忘れる術を持っていた。
そして、そんな忘れられた教会の、
一応形を残している十字架の前で、
今日は女が告白をしていた。
誰とは知らない。
形だけ、跪いて、指を組んで。
「あの人に重荷を背負わせた、私が悪いのです…」
と。
「重荷も背負わせる事が出来ると、勘違いをした私が悪かったのです…」
女の顔は見えない。
ただ、女は告白を続ける。
「そう、勘違いの関係でした。そして重荷を背負わせた。それが私の罪です…お願いです、罰してください…」
女の声は泣いている。
「わかっています。斜陽街に罰する神などいないこと…でも、私には罰が必要なのです…」
女は何かを決意したようだ。
「そうだ…私であることを捨ててしまいましょう…罰するものがいないのなら…」
女は跪いたまま、祈りの姿勢を崩さず、うつむいている。
その女から、気配が徐々に消えていく。
女という姿はそのままに、
存在が曖昧になっていく。
「私の意味を消しましょう…」
女は、斜陽街でいうところの、
情報を全て失った者…浮浪者になりかかっていた。
それでも、女の涙が浮浪者になりきらせてくれない。
「どうして…消えてくれないのですか…消したいのに…」
あるいは彼女の情報が消え切らないことが、
彼女に対する罰なのかもしれない。
彼女は出来るだけの情報を教会で消すと、
「また、来ます」
と、言い残し、
斜陽街に出ていった。