これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
緑の葉の描かれた扉の向こうの世界の物語。
あるところで少年が狐を飼っていた。
狐といっても、小狐らしく、
手のひらほどのサイズの狐だ。
その世界の狐全てがそういう訳でもないだろうが、
取り合えず少年の狐は、両方の手のひらで包めるほどの狐だった。
その狐は、よく脱走しては捕まえられていた。
少年も慣れたもので、
狐が行きそうなところは知っていた。
でも、狐も賢くなってくるもので、
狐はどんどん遠出をするようになっていった。
最近では、小さな家の、小さな庭の外まで、探しに行くことがよくあった。
狐も狐で、追われるのを楽しんでいる節があった。
ある程度まで行ったら捕まるように。
狐から待っていることもあった。
(どこまで逃げられるか試してみよう)
狐がそう思ったかどうかは定かではない。
しかし、その日、
狐は少年を待たずにどんどん逃げていった。
少年は追っていく。
いつもと違うことを少年も予感して。
小さな狐は小さな田舎町を駆けていく。
郊外のその町は、あっというまに人家が途切れた。
それでも狐は駆けていく。
いつもより速く、いつもより遠くへ。
舗装もされていない、
黄色い土が剥き出しの道を狐と少年は駆けていく。
あまり広くない道を。
道の端っこからは、背の低い植物が畑になっている道を。
狐と少年は駆けていく。
時折咲いている小さな花を、横切る風で揺らしながら。
少年と狐は、
追うもの追われるものでありながら、
まだ見ぬ風景を予感していた。