斜陽街から、黒い風が去ってからしばらくして、
二番街の小さな空き店舗に人が入った。
そして、人が入ったと確認されてから数日で、
店の前は花でいっぱいになった。
空き店舗に入ったのは、花術師と名乗る、品のいいおばあさんだ。
花術師というのも耳慣れないが、
どうも、植物…特に花に関するエキスパートらしい。
店の外に彩られた花、
店の中に彩られた花。
そして、店の中にところせましと置かれた、
種、球根、それからドライフラワーも。
花術師は、そんな花で彩られた店の中で、
揺り椅子に揺られながら花を編んでいる。
蔦を編んでいることもあれば、
花束を作っていることもある。
こんな事もある。
花術師が瓶の中に少量の水と、何かの種を入れる。
そして、その瓶を持ったまま、
揺り椅子でゆらゆらと居眠りをする。
そんなところに客が来ると、
花術師の持っている瓶の中、ムクムクと植物が成長し、
ぱっと花が開く。
そんな光景に客がびっくりしていると、
そこで花術師は目を覚まし、
「おや、お客さんでしたか」
と、笑うのだ。
花術師は年老いているが、
足腰はおもったほど悪くない。
とりあえず、花の手入れを出来る程度は。
時々斜陽街の店に、花をおすそわけにも行くらしい。
老いていても記憶の方もしっかりしているらしく、
斜陽街の入り組んだ道も、結構早くに覚えてしまった。
今は、番外地やがらくた横丁もしっかり覚えている。
二番街の一角で、
少しくすんだ斜陽街に、
控えめで、そして華やかに、
小さな花術師の店がある。
花のことなら種からまかせてもいい。
そんな店が出店した。