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第69話 街

夜羽はマスターに「行ってきます」と、告げると、

バーから斜陽街に出た。

風が吹く。

入ってきた風か、出ていった風か、

少し考えたが、どちらでもいいと思い、

街を歩いた。


一番街を歩く。

病気屋が熱屋に入っていくのを見た。

音屋はいつものように営業しているようだ。

ピエロットのギター弾きが、ギターの弦を買って出ていくのを見た。

酒屋は弟子が店番をしているようだ。

電脳中心では、電脳娘々がまだダイブの最中だった。

シャンジャーと一緒なのかもしれない。


占い屋の角から、

二番街を歩く。

占い屋から男が逃げて出てきた。

ペットショップはシャッターが閉まったままだ。

猫屋敷は行儀のいい猫が、時折主人に擦り寄っている。

ピエロットからは、黄色いサロペットの螺子師が出てきた。

何かさっぱりした顔をしている。

彼にも何かあったのかもしれない。

洗い屋には羅刹がいて、店の女性と話していた。

羅刹もまた、この街に溶け込んでいると思った。


三番街を歩く。

草ぼうぼうの教会は、何の気配もなくなっている。

浮浪者の気配もない。

罪が癒されるまで祈っている存在があったと、以前、螺子師が言っていた。

それから、羅刹が祝福した、「幸せになりたがりすぎていた花嫁」。

罪は癒されたのだろう。

黒い風は去っていったから。

白い風になって。


がらくた横丁を歩く。

合成屋はのっぺらぼうの仮面から、何か珍妙なものを見ている。

鎖師は、どこかに鎖を届けに行った。

玩具屋はふと、何かを思い出したように、猿のおもちゃを見た。

薬師は、ゴリゴリと何かをすりつぶしていた。

そして、舐めて、「にがい」と、顔をしかめている。

螺子師はまだ帰ってきていない。

がらくた横丁の奥の壁に、ネズミが通れそうな穴が、塞がれているのを見た。


番外地を歩く。

歩く夜羽の傍を、タキシードの螺子ドロボウが通り過ぎていった。

鳥篭屋は竹の鳥篭を編んでいた。

扉屋は、扉を彫ることに没頭していたが、

扉から風が吹くと、しぶしぶというように扉を閉め、また作業に没頭した。

スカ爺は、ノイズが入らなくなった八卦池を覗き込んでいる。

時々頷いている。

人形師は安堵の表情そのもので、人形を相手にしていた。

探偵事務所はまた暇になったらしい。

探偵は居眠りをし、助手は自分で入れた茶を飲んだ。

そして、神屋には新しい住人が幸せそうに居着いている。


夜羽は何の気配もなくなった廃ビルにやってきた。

階段をたんたんと上がっていくと、

大広間に酒屋がいた。

染み付いた思いを酒にしたらしい。

夜羽に軽く挨拶すると、

酒屋は帰っていった。


夜羽は廃ビルの屋上に出た。

ものすごい夕焼けだ。


風がまた吹いた。

夜羽は思わず帽子を抑える。

そして、風が穏やかになる。

夜羽は帽子を抑えていた手を離し、

その手を屋上のフェンスに置く。


街が一望できる。


夜羽はこの街が好きだ。

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