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第67話 祝福

黒くなってしまった花嫁を抱きしめたまま、

羅刹は、どうしたら彼女が幸せになれるか考えていた。

彼女は幸せになりたがりすぎていたのだ。

幸せな思い出の残骸で、そのドレスを黒くしてしまうほどに。


羅刹は思い付いた。

(この人の悲しみの黒を、自分に移せないだろうか…)

思いを込めながら、花嫁のドレスをなでる。

少しその黒が薄らいだ気がした。

何度もその行為を繰り返す。

やがて羅刹のスーツの黒が深まり…

やがて…


そこには白いウェディングドレスの彼女がいた。


あの時…あの時と言うのがよく思い出せないが、多分、過去。

あの時の彼女だ。

花嫁がヴェールの向こうで微笑む。

多分昔に見たことのある微笑み。

黒い思い出達は、少し重かったが、

彼女が微笑んでくれるなら、それでいいと思った。


「さぁ、幸せになってください」

羅刹は祝福する。

明るくなった大広間。

染み付いた思い出達も祝福する。


余計なものを羅刹に渡して、軽くなった花嫁は、

思いを乗せ、白い風となって、扉屋の扉をくぐっていった。


(行ってしまいましたか…)

そこはがらんとした廃ビルの大広間。

扉屋の主人でなくてもわかった。

あの人はもう、斜陽街に来ることはないだろうと。


羅刹の耳の奥、

微かにモーターボートの音が聞こえた気がした。

それはとても懐かしいと感じた。


でも、何故懐かしいのかはわからなかった。


羅刹は廃ビルを下り、番外地に出た。

もう、あの懐かしい歌は聞こえない。

番外地の連中もほっとしていることだろう。

羅刹は斜陽街の風を感じた。

自分もここの住人となれているようだ。

自分ももう、あの花嫁と逢うことはないだろう。


「斜陽街で逢いましょう…」

斜陽街で懐かしい人に逢えた。

その人を祝福できた。


羅刹は、そのことにひどく満足した。

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