この蝶々は毒蜜を好むと言われた。
毒蜜なんてどこにあったものだろう。
羅刹は番外地で、途方に暮れていた。
羅刹が番外地に来たのは、
蝶々がそっちに行きたいように動き回っていたから。
何かを求めるように、
虫篭の中で番外地を目指していた。
歌が聞こえる。
懐かしい歌が。
廃ビルから聞こえる懐かしい歌。
結婚式場だったらしい廃ビル。
羅刹はそのビルを見上げた。
歌は上から聞こえる。
ふと、手元でパタンパタンと音がするので、
虫篭を見ると、
蝶々が出たがっているように暴れていた。
羅刹は虫篭を開けてみた。
蝶々は羅刹の周りを少し飛んで、廃ビルを上へと飛んでいき、窓に吸い込まれていった。
しばらく羅刹はその窓を見ていたが、
戻ってこないだろうと思って視線を外した…
その時、何かたくさんの羽音らしいものがしたので、急いで視線を戻した。
大量の虹色の蝶々が、
窓から飛び立っていく。
虹色の織物を流すように。
羅刹は歌が途切れていることに気がついた。
蝶々は…増えた、のかもしれない。
廃ビルの上の階で何かがあった。
羅刹はそんな予感がした。
羅刹は無意識に廃ビルの扉を開き、
上へと駆け上がっていった。
廃ビルに染み付いた思いが、羅刹を通り過ぎていく。
祝福された花嫁。
笑顔の新郎新婦。
白いウエディングドレス。
階段を駆け上がっていくだけなのに、
歪んだ階段から思いが溢れてくる。
羅刹は最上階へやってきた。
そこは灰色の大広間。
大きなガラス管が壊れて、虹色がたくさん集まっている。
虹色の蝶々は、ガラス管から溢れた毒蜜をいただいているようだ。
摂取する度に、増えていくらしい。
中にいた人影が、男らしい輪郭を取り戻していた。
羅刹は気配に気がついた。
暗闇に目をやる。
黒いウェディングドレスの女性が、暗闇から現れた。
「あなたは…」
羅刹は知らず呟いた。