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第61話 蝶々

羅刹は、がらくた横丁にいた。

何かに呼ばれた気もしたし、

何か予感があった気もした。


ゴミゴミした細い路地。

配管や水道管、電気のコードなどがあちこちに見える。

意味を成さないようながらくたが、そこかしこに積んである。


羅刹はがらくた横丁の、合成屋にやってきた。

入口をくぐると、合成屋は何かを合成しようとしているところだった。

ピンク色の…桜と…ガラスの瓶?


合成屋が振り向いた。

相変わらずのっぺらぼうの仮面をかぶっている。

「やっぱり来ましたねぇ」

合成屋がそう言う。

羅刹が、訳が分からないと首を傾げると、

「あなたと同じですよ。予感がしたんですよぅ」

合成屋は「ふふふっ」と笑った。

「今日は吉日。この子達を合成してあげようと思いまして…」

『賢者の井戸』の傍に『修羅の桜』と『無虫』が置いてある。

「羅刹さんも見守っていてくださいな」


そうして、儀式が始まる。

桜と虫を井戸に放り込んで、

合成屋がもにゃもにゃと呪文を唱える…

…そして、井戸を蹴飛ばす。


沈黙。


そして、水面から虹色の小さな物が羽ばたいた。


虹色は合成屋の店内をさまよい、羅刹の胸にとまった。

よく見ると、手のひらサイズの蝶々だ。


「やっぱり羅刹さんになつきましたねぇ」

合成屋はどこかから虫篭を持ってくる。

蝶々はしばらく羅刹の胸にしがみついている。

「ほら、おいで」

合成屋が虫篭を開くと、ちょっとして、おとなしく虫篭におさまった。


「では、どうぞ」

と、合成屋は羅刹に虫篭を持たせる。

羅刹が戸惑っていると、

「この子は『境界の蝶々』。毒蜜が好きなんですよぅ。とてもきれいですけどぉ…」

合成屋が虫篭をつつく。

「羅刹さんが持つべき、そしてそれが役に立つはず。僕は合成するだけで満足ですよぅ」


羅刹は合成屋に一礼すると、

また斜陽街に出ていった。

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