羅刹は、がらくた横丁にいた。
何かに呼ばれた気もしたし、
何か予感があった気もした。
ゴミゴミした細い路地。
配管や水道管、電気のコードなどがあちこちに見える。
意味を成さないようながらくたが、そこかしこに積んである。
羅刹はがらくた横丁の、合成屋にやってきた。
入口をくぐると、合成屋は何かを合成しようとしているところだった。
ピンク色の…桜と…ガラスの瓶?
合成屋が振り向いた。
相変わらずのっぺらぼうの仮面をかぶっている。
「やっぱり来ましたねぇ」
合成屋がそう言う。
羅刹が、訳が分からないと首を傾げると、
「あなたと同じですよ。予感がしたんですよぅ」
合成屋は「ふふふっ」と笑った。
「今日は吉日。この子達を合成してあげようと思いまして…」
『賢者の井戸』の傍に『修羅の桜』と『無虫』が置いてある。
「羅刹さんも見守っていてくださいな」
そうして、儀式が始まる。
桜と虫を井戸に放り込んで、
合成屋がもにゃもにゃと呪文を唱える…
…そして、井戸を蹴飛ばす。
沈黙。
そして、水面から虹色の小さな物が羽ばたいた。
虹色は合成屋の店内をさまよい、羅刹の胸にとまった。
よく見ると、手のひらサイズの蝶々だ。
「やっぱり羅刹さんになつきましたねぇ」
合成屋はどこかから虫篭を持ってくる。
蝶々はしばらく羅刹の胸にしがみついている。
「ほら、おいで」
合成屋が虫篭を開くと、ちょっとして、おとなしく虫篭におさまった。
「では、どうぞ」
と、合成屋は羅刹に虫篭を持たせる。
羅刹が戸惑っていると、
「この子は『境界の蝶々』。毒蜜が好きなんですよぅ。とてもきれいですけどぉ…」
合成屋が虫篭をつつく。
「羅刹さんが持つべき、そしてそれが役に立つはず。僕は合成するだけで満足ですよぅ」
羅刹は合成屋に一礼すると、
また斜陽街に出ていった。