…全て呪うような黒いドレスで…
広間に彼女の歌が響く。
声の主は黒いウェディングドレスをまとった女性。
ヴェールで顔を隠しているが、
微かに見える肌は死人のように白い。
ここはその昔、結婚式場だったと、
彼女は知っているのか知らないのか。
広間に呪わしい声を響かせる。
狂ったように、かなしそうに。
…幸せになりたかった…
水路の多い街…
仲間がいた…
何が幸せなのかわからなかったが、
あの時間は幸せだった。
…全て崩壊してしまえばいい…
黒いドレスの女性は歌う。
崩壊を望む歌を。
自分が仲間や幸せから引き裂かれたように、
全て引き裂かれて、崩壊してしまえばいい、と。
彼女の傍には、
大きなガラス管がある。
人間がすっぽり入ってしまうくらいの。
そこに、人影らしいものが見える。
体格から男らしい事はわかる。
ただ、姿はあまりにも醜く爛れている。
どろどろした液体に浸けられ、鎖で雁字搦めになっている。
…絶対に、離さない…
彼女が歌う。
胸が張り裂けるような声で。
ガラス管の中の男が、身じろぎしたような気がした。
鎖が触れる音がする。
彼女はそちらを向いて、呟く。
…誰にも渡さない…
そして彼女は歌う。
全てを呪うような歌を。
それは広間から、廃ビルを響かせ、斜陽街の番外地へと響く。
それは黒の女性の歌う、黒の歌、黒の風。
胸張り裂けるような思いの波。
…幸せに…なりたかった…
彼女は歌っている。
その魂が救われるまで。