「ほんっとーに、これもらっていいんですかぁ?」
台詞の主は合成屋。
もらっていいかと聞かれているのは…どうやら今回の客らしい。
「ええ、いいもの合成してもらいましたし…私には必要ない『虫』ですし…」
そう、客の手にはガラスの瓶に入った、『虫』がいた。
合成屋は多分、じぃっと『虫』を見詰めている。
真っ白な、のっぺらぼうの仮面をかぶっているので、視線がわからない。
そして、
「ほんとうに、ほんっとーに、いいんですね?」
と、聞いてくる。
客は、少々動揺したが、
「ええ、お礼ということで…もらって下さい」
そして、合成屋の義手に瓶を渡す。
合成屋は渡された瓶を見詰めていた。
上から下から斜めから見た。
いろんな角度の『虫』を見た。
そして…
「いやっほぅ!」
と、すっとんきょうな叫びをあげた。
「間違いない、間違いないぞぅ!」
合成屋の表情はわからない、
何が間違いないのかもわからないが、
とりあえず嬉々としていることは、
踊りだした事や、
客が帰ったことに気がつかないことからも伺えた。
「いゃあ…正直こんな日が来るとは思わなかったねぇ…」
合成屋は多分『虫』を見詰めている。
「『
そうして、合成屋はあまりに嬉しいらしく、ちょっと笑った。
表情はわからない。
合成屋は、店の奥から、以前もらった桜をどこからか取り出してきた。
『修羅の桜』と呼ばれたそれだ。
賢者の井戸の近くに『無虫』と並べる。
合成屋は、多分、満足そうに、それらを眺めた。
「さぁて、こよみこよみ。次のいい日はいつかなぁ?折角だから、いい日に合成してあげたいよねぇ…」
そう言うと、合成屋は足取り軽く店の奥に消えていった。