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第57話 記憶

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

重そうな鉄の扉の向こうの世界の物語。


ここは『忘却の草原』、

そこで、置いてきたはずのレオンの記憶が戻ってくる。


自分は天使を求めて斜陽街にやってきた。

斜陽街で一人の女性に世話になった。

猫の目のような女性だった。

自分はその女性を大切に思った。

夢を語ったりもした。

天使を探すという夢を。

だから、自分はその女性に『自分』を半分預けることにしたのだった。

天使を見つけたなら、

合成屋にあずけてある、『半分の自分』と空っぽのオルゴールと合成した、それを、

世話になった彼女に渡そうと、


自分は扉屋の扉をくぐり、『忘却の草原』に入った時点で、記憶の大半を斜陽街に飛ばした。

そういうことだったのだ。


「ギアビス…」

「なに?」

ギアビスがレオンの顔の下から彼を見上げる。

「俺はまた扉をくぐって斜陽街に戻らなければならない」

一瞬、ギアビスの表情が曇る。

「世話になった人に渡すものがあるだけだ。必ず、戻ってくる」

「必ず?」

「ああ、必ずだ」

ギアビスが頷く。

「待ってるから」

ギアビスは無理に笑顔を作った。

「待ってるから」

その瞳に涙が浮かぶ。

「待ってる…」

泣き出してしまったギアビスの肩を優しく包むと、

「必ず戻ってくる」

しっかりとそう言った。


飛べないと嘆くギアビスと、

いつか一緒に空を飛ぼう。

空を飛んで、旅に出るのもいいかもしれない。

そしてこの草原に帰ってこよう。

ここがギアビスと自分の家なのだから。

ギアビスは探し求めていた天使なのだから。

もう、一人にはさせない。


家から少し離れた草原にぽつりと立つ、

レオンは鋼鉄の扉を開いた。


斜陽街の風が吹いた。

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