「電網だってどこに繋がっているかわからない…けど、あたしが探れるところの彼女はここが限界」
電脳娘々は客にそう言う。
「目当ての彼女はいた?」
客は首を横に振った。
「そっか…でも、あんたも珍しい事するね。穴の向こうの人探しするなんて」
電脳娘々がゴーグルを外す。
「螺子師さんがここ来た時は、何かと思ったけどね」
客…螺子師は電脳娘々がアクセスできただけの情報を持つと、店を出ていった。
電脳娘々は椅子に座ったまま天井を仰ぐ。
電網だって限りがある。
しかし、情報というものは電網だけではない。
『彼女の行方』という情報もどこかにある。
電脳娘々のネットワークでは引っかからなかっただけのこと。
電網はどこに繋がっているかわからない。
だから螺子師は探偵でなく電脳娘々を選んだのだろう。
もしかしたら異世界にも接続することも出来るかもしれない電脳娘々を…
電脳娘々は斜陽街にいる。
電網の上では、聞いたことのない街に住んでいる友人もいる。
どこに住んでいるかは大した問題ではない。
性別だって年齢だって、
求める情報でなければ、要らないものなのだ。
重要なのは情報を選び、吸収すること。
そして、情報を残すこと。
情報を残すことが電網にいるという証。
それが重要だと電脳娘々は思う。
『電脳娘々、いるか?』
不意に端末から音声情報。
「その声は…シャンジャー?」
『ああ、俺だ、ちょっと手伝ってくれ』
「バグ取り?」
『情報をすごいスピードで変えていく奴だ、キーボードでは追いつかない、直接繋いで来てくれ』
「OK」
答えると電脳娘々は、ゴーグルをかけて「アクセス」と呟く。
周りにあったコードを自分自身の神経に繋ぐ。
痛みはない。
電脳娘々はコードだらけの椅子に腰掛けたままゆっくり意識を潜らせる。
いつもの仮想の街でシャンジャーを見付ける。
「奴は?」
「情報変えているから探すのが面倒だ…このあたりに追いつめたはずだが…」
電脳娘々はちりっとした情報の揺らぎを感じた。
いる、このあたりに…
その時、風が吹いた。
「流れた!そいつだ!」
シャンジャーが叫ぶ。
「なるほど、風をとらえるわけね…」
電脳娘々は不敵に笑う。
「追うぞ!」
「OK!」
電脳娘々は電網の上で情報の風になった。