「あたしにも呪いを教えてよっ!」
そう言った彼女はまだ幼い。
間違いなく十代だろう。
顔だけなら、高校生くらいに見える。
ただし、服装はどこか大人びている。
背伸びしているのかもしれない。
そして、そう言われた方は…占い屋のマダム。
決して呪いを商売にしている訳ではない。
ただ、占い師という職業がどこかで勘違いされて彼女に伝わったのだろう。
「私は呪いを商売にしてる訳じゃないのよ?」
困ったように…本当に困っているのかもしれない…マダムは彼女を諭す。
「教えてくれるだけでいいの!」
ふぅ、とマダムは溜息をついた。
「あたしは占い師。呪術師じゃないわ。でも、何か悩んでることがあるのなら、占い師が力になれるかもしれないわよ」
「あたしは…」
「話してごらんなさいな」
マダムが誘導する。
彼女はそれに導かれる。
「片思いの人がいるの…」
「恋愛成就させたいの?」
彼女は首を横に振る。
「それだけじゃないの。親友と思っていた女に取られそうなの…」
「それは確かなの?」
「確かなはずよ!噂で聞いたもの!」
彼女は力説する。
マダムは再び溜息をついた。
「彼女から彼を取り戻すのに呪いが必要ってわかったでしょ!さぁ、呪いを教えてよ!」
「待って待って…」
マダムが制する。
「だから、占い師だって言ってるでしょう?」
「占い師は呪いをするんでしょ?」
「占い師は占いをするの」
彼女は憮然としている。
「私は呪いを教えることは出来ないわ」
「…そう、わかったわ」
彼女は納得いかないような表情のまま席を立ち、そのまま占い屋をあとにした。
「いいんですか?」
占い屋の雇われ占い師がマダムにたずねる。
「いいのよ…呪い覚えたって、いいことないもの…」
「そうですか?」
「そうなのよ」
マダムは頬杖をつく。
「あたしがいい例だわ…」
マダムは遠くを見た。
「…あの子、昔のあたしに似ている気がしたのよ」
マダムの視線の先はわからなかった。