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第48話 失踪

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

天使の彫られた扉の向こうの世界の物語。


彼女が消えた。

ある日突然彼女が消えた。


「今日はイチロウさん遅いですね…」

ユキヒロが呟く。

「いつもは結構先に来てるのになぁ…」

キリエが答える。

ケイは黙ってドラムの準備をしている。


雨が降っている。

この分だと強く降りそうだ。

キリエは嫌な予感がした。


どたばたっと誰かが駆け込んでくる。

「遅くなってごめん!」

それはアキ。

ずぶぬれだ。

「ほら」

キリエがタオルを投げてよこす。

「さんきゅ」

アキは頭をごしごしと拭く。

そして気がつく。

「イチロウさんは?」

「まだ、です」

ユキヒロが答える。

「ふぅん…」

変わった日もあるものだとアキは首を傾げた。


しばらく楽器隊だけで音を合わせる。

そうして一時間ほど過ぎた。

キリエとアキはおしゃべりをはじめた。

「ヴォーカルいないと、なんか物足りないなぁ…」

「イチロウさんどうしたんだろ?」

「ナナと喧嘩したとか?」

「まさかぁ」

「それとか、子どもがとうとう産まれるとか?」

「産まれるんだったら僕達にも言いそうなものじゃない」

「そうだよなぁ…」

う~ん、と、二人して考え込んでしまった。

年少組のやり取りを微笑んで見ていたユキヒロだが、

「本当にどうしたんでしょうねぇ…」

と、困ったような表情を浮かべた。


雨は強く降っている。

雷も鳴り出した。


解散しようかと彼等は楽器を片付けはじめた。

雷がぴかっと光り、

一拍置いて、ゴロゴロと鳴る。

「とうとう来ませんでしたね…」

「イチロウにも事情があるんだろう」

黙っていたケイがそう言う。

「そうですね…」

「それじゃ、俺は行くぜ」

キリエが出て行こうとする。

すると、扉が勝手に開いて風雨とともに何かが転がり込んできた。

白く脱色した髪、サングラス…

「イチロウ!」

彼は紛れもなくイチロウだった。

ただ、雨でずぶぬれになり、ぐったりとしている。

「おい、どうしたんだ」

キリエが声をかける。

「ナナが…」

「ナナさんがどうかしたんですか?」


「ナナが消えた…」


青白い光りが輝き、

雷が鳴る。


彼女が消えた。

ある日突然彼女が消えた。

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