縞模様の猫がにゃごにゃごと何かを呟いた。
ここは二番街にある通称猫屋敷。
猫がたくさん住んでいる。
飼い主の女性は、ぼんやりしがちの女性。
でも猫達は彼女が好きだ。
『あの男に出会ったことは、彼女にとって幸福で不幸だった』
一番古株の黒猫は、そう分析する。
『俺はあの男とすごした短い間の幸福を知っている。だから、待つなとは言えない』
『戻ってくるよな』
白猫がきく。
『絶対戻ってくるよな』
白猫が念を押す。
答えるものはいない。
『戻ってこないと…彼女かわいそうじゃないか…』
白猫はにゃあんと鳴いた。
『あの人はいつだって遠くを見ていた…』
彼女はぼんやりとそう考える。
まだ待っているのだろうか?
いつまで待っているのだろうか?
自分自身に問い掛ける。
過去の優しかった彼に、すがっているのかもしれない。
私だけが特別ではなかったのかもしれない。
特別はもっと別のところにいたのかもしれない。
彼女は思い出す。
斜陽街に迷い込んだ彼のことを。
黒猫を抱いている私の目を見て、
『君は猫のような目をしている…』
そう言ってた。
その眼があまりにも誠実そうだから、
あまりにも奇麗な眼をしていたから、
家に置いていたくなった。
出来るなら閉じ込めたかった。
独占したかった。
それでも彼は旅立っていった。
彼が探していた天使のもとへ。
追う気はない。
『きっと帰ってくる』
そう言ったから。
いつまで待つのだろうか?
自分自身に問い掛ける。
過去の彼のことを忘れてしまえば…
そう考えることもあった。
忘れることなんて出来ない。
大切な彼。
あと少しだけ想わせて…
そして彼女はまた過去に浸る。