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第45話 死

これは妄想屋の一本の妄想。


ブツッと録音がはじまる。

「あー、あー、録音されてますか?」

一度途切れ、再び録音がはじまる。

録音されたものを巻き戻して聞いたらしい。

「録音されてるみたいだな」

客らしい男の声。

「古い型ですけど、録音機能は悪くないですよ」

と、妄想屋の声。

「そうか…」

「では、あなたの妄想を聞きましょうか」

椅子を引く音。

どちらかが座り直したらしい。

「俺の妄想…」

客は少し黙る。

そして話す。

「それは斜陽街に来た時からはじまった…」


「斜陽街に来た時から、時々別の誰かの考えや感覚が頭に入ってくるんだ…」

「どんな感じなのでしょう?」

夜羽は聞き出す。

「道を歩いていると不意に別の街の景色が見える。全ての感覚が一瞬その街に飛ぶ。その街の誰かと感覚が重なる。そして少しすると斜陽街に感覚が戻ってくる。そんな感じだ」

夜羽は次の質問をする。

「その街に行って、どんなことを感じていますか?」

客は少し唸り、話す。

「おかしな話しだが…感覚が重なったその街の誰かはこう考えている。『彼女は既に死んでいるのではないか』と…」


「彼女は既に死んでいる?」

「確かにそう感じていた。その誰かの前には明るい笑顔があり、仲間がいた。女性と思われるのは二人。そのうちどちらかは既に死んでいるのではないかと感じていた…」

「ふむ…」

「彼女は多分死んでいることを否定している。だからあんなに笑える。重なった誰かはそれが辛い。その辛さが伝わってくるんだ…」

客が涙ぐむ。

「なぁ、死んでいることを告げた方がいいのか?それともこれは俺の妄想だから告げない方がいいのか?…俺は彼女が死んでいない方がいい、だけど…」

それからは言葉にならなかった。

「彼女が死んでいなければいいというのは、あなたの感覚ですか?それとも、重なった誰かの感覚ですか?」

夜羽がたずねる。

客は答えなかった。


黒い風が吹いて以来、どうもおかしなことが続いている。

これもその一部かもしれない。

そう、妄想屋は言っていた。

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