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第44話 浄化

「気にしないのか?」

頭を洗い終えた客が、洗い屋にそうたずねる。

「何をですか?」

洗い屋は人懐っこく微笑みながら返す。

客は少し困って、

「例えば…僕が何の仕事をしているのかとか…何故いつも血まみれなのかとか…」

洗い屋は「うーん」と考え、

「あんまり気になりませんねぇ」

黒スーツの客は少し考え込む。

「気にかけるほどの存在じゃないということか?」

「うーん…それとはまた違うんですよねぇ」

洗い屋は困ったように頭を掻く。

「洗い屋は皆を平等に洗う。みんな大切なお客様ですよ。多分そういう事なんです」

「そっか…」

「マッサージ、どうします?」

「今日はいい…けど、少し話したい気分なんだ」

「付き合いましょう」

洗い屋は客の前に椅子を一つ持ってくると腰掛けた。


「お茶、どうぞ」

洗い屋が店の奥からお茶を持ってくる。

何のお茶かは知らないが良い香りがした。

「どうも…」

と、客は茶を受け取ってすする。

そして客は意を決したように話す。

「僕は羅刹。人殺しをしている…」

洗い屋は一瞬少し眼を見開いた。

しかし、すぐに人懐っこい笑みを浮かべた。

そして、

「やっぱりそうでしたか」

今度は羅刹の方がびっくりした。

「人殺しなんだ。怖くないのか?」

洗い屋はニィと笑った。

「言ったでしょう、みんな大切なお客様です。怖くなんかありませんよ」

洗い屋は続ける。

「洗われているその時、それは赤子のように無防備な時です。そんなお客様を怖がったりしませんよ。むしろ守ってあげたいくらいです」

羅刹は溜息をついた。

「敵わないな…」


「この店に来る度思う。自分は浄化されている。この血まみれの手もいつかきれいになるような気がするんだ…」

羅刹は手を見詰める。

その手は先程シャワーを浴びてきれいになった手である。

羅刹にはまだ返り血が見えているのかもしれない。

「あなたはこの街に受け入れられている」

洗い屋は優しく微笑む。

「大丈夫、きれいにしてあげますよ」

洗い屋は羅刹の頭を撫でた。

「母さんの匂いがする…」


羅刹はしばらくなでられるままになっていた。

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