これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
重そうな鉄の扉の向こうの世界の物語。
レオンは力仕事を任されるようになった。
とりあえず今は薪割りをしている。
ベッドでいろいろ考え込むより、身体を動かしていた方がいい。
義手の調子は悪くないし、義眼もよく見える。
レオンは随分薪を割った。
そこでふと手を止めた。
汗をかいた身体に心地よい風が吹いていった。
「…飛べないんだ…僕は」
少しかなしそうなギアビス。
微笑むギアビス。
大笑いするギアビス。
レオンの記憶はほとんどギアビスで埋められていた。
それでも…
ふと、ここに来る前のことを思いだそうとする。
こんなに穏やかな生活。
その前、一体自分は何をしていたんだろう?
「レオン」
自分を呼ぶ声で我にかえる。
「また何か余計なこと考えてたでしょ」
ギアビスは微笑む。
レオンは頷く。
「昔のことを思いだそうとしていた」
レオンは包み隠さず話した。
ギアビスは一瞬寂しそうな顔をした。
でもすぐ、それを微笑みで隠した。
「俺はここの人間じゃない。それだけはわかっている…」
ギアビスは頷く。
「一体何を求めてここに来たのか…自分は何者なのか…何を残してきてしまったのか…」
「レオン…」
「俺は…不安なのかもしれない…」
ポツリとレオンが呟く。
ギアビスは眼を閉じた。
そして呟く。
「僕も不安なんだ…」
「レオンはどこにだって行けるよ。あの鋼鉄の扉をくぐって、戻ることだってできるはずなんだ…」
ギアビスは眼を開く。
「僕はこの草原を動けない。多くの祖先が残してきた知識を守る義務があるんだ。知識の結晶が…君の義手や義眼、そして僕の身体なんだ」
ギアビスの眼に涙が光る。
「こんな身体抱えて…一人はもう…嫌なんだ…」
ギアビスの眼から涙が溢れた。
レオンは衝動的にギアビスを抱きしめていた。
その背には…大きな純白の羽根があった。
『こんな身体』とはこれなのだろうか?
レオンは羽根もまとめて抱きしめた。
レオンは頭で何かがはじけた気がした。