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第40話 雷

遠雷が鳴っている。

「珍しいですねぇ」

と、合成屋は義手の手入れをしながら言った。

「そうなのか?」

合成屋の客…羅刹が不思議そうにたずねる。

「雨が降ることはありますけど、雷までは…珍しいですねぇ」

「そうなんだ…」

納得する羅刹。

青白く光る窓。

遅れて鳴る雷。

「降りそうですねぇ…」

合成屋が天井を見ながら言った。


少し強い雨足。

合成屋の賢者の井戸に波紋が広がる。

そこだけどういう訳か雨漏りをしている。

合成屋の趣味なのかもしれない。

「そういえば最近も雷ありましたっけねぇ…あの時は電脳娘々さんも停電して困ったと聞きましたっけ…」

「最近…うん、あった…」

「雷は嫌ですよぅ。なんか怖いじゃないですか」

合成屋が大袈裟に首を竦める。

「雷…」

羅刹はサングラスごしに遠くを見る。

「雷の記憶…」

また窓が光った。

雷が鳴る。

少し近づいたようだ。


「妄想かもしれないんで聞き流してもいいんだ…」

「聞きましょう。聞いてくれないよりはマシでしょう」

「うん…」

羅刹は頷いた。

そして、ぽつりぽつりと話し出す。

「前の雷の時に…僕は番外地の廃ビルで雨宿りをしていたんだ…」

「最近噂の廃ビルですね。妙な歌が聞こえるとかいう…」

「うん…その時…稲光とともに一瞬フラッシュした光景…」

羅刹は言葉を区切る。

雨はだいぶ強くなったようだ。

「黒いドレス…大きなガラス管の中にいる男…灰色の大広間…」

カッとあたりが眩しく光り、間髪入れずに雷が鳴る。


二人は少し沈黙していた。

雨はまだ強い。

雷はその少しの間に少しずつ遠くに行っているようだ。

ぱたぱたぱた、と、雨漏りが井戸に落ちる。

「羅刹さんだから見えたんじゃないですか?」

先に口を開いたのは合成屋だ。

「え?」

羅刹は聞き返してしまう。

「その光景ですよぅ。斜陽街に根を張っている僕達じゃ見えないんだと思いますよぅ」

「…」

「きっとよそから来た羅刹さんだから見えたんですよぅ」

「かといって…その見えた意味もわからない…」

「いいんですよぅ、意味なんて後づけすれば」

合成屋は笑った。

羅刹も少し笑った。


雨は随分弱くなったようだ。

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