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第39話 夢

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

天使の彫られた扉の向こうの世界の物語。


アキは夢を見た。


みんながいた。

いつものようにみんながいた。

キリエがいて…

ケイとユキヒロがいて…

イチロウがいて…

ナナが…


ナナは笑っていた。

イチロウの隣りで微笑んでいた。

アキは凍っていた。

動けないでいた。

イチロウも微笑んでいた。

幸せそうだった。


(その微笑みは誰のもの?)

アキが問い掛ける。

ナナが答える。

「私のもの」

ナナの顔が奇妙に歪んだ。


「けらけらけらけら…」

ナナが笑った。

気がつくとみんな笑っていた。

「けらけらけらけら…」

(やめて…)

「けらけらけらけら…」

「やめてーっ!」

アキは叫んだ。


ふっと場面が変わる。

「夢魔の領域へようこそ…」

暗いそこへ立っていた男はそう言った。

「夢魔?」

「夢使いと言い換えてもよろしいかな」

ひっひっひ、と、男は笑った。

アキにはよくわからない。

「お望みの夢を見せてあげましょう…たとえば…」

男が指を鳴らす。

幕があがり、スクリーンがあらわれる。

映画館のようだ。

そして何かが上映される。

あれは…

「イチロウさん…と…」

アキだ。

二人が幸せそうに笑っている。

そこにナナはいない。


「いかがですかな?」

男はアキの傍にいた。

「ここに一つサインをいただければ、夢の中で彼はあなたのもの…」

男はまたひっひっひと笑った。

「代償は?」

アキが問い掛ける。

男の笑いが止まる。

「ただじゃやらないんでしょ?」

アキは再び問い掛ける。

男はにやりと笑う。

「命を一つ…ご本人のものでなくても構いませんがね」

「僕のでなくてもいい…」

「そう、例えば…」

一人の女性の顔が大写しになる。

「ナナ…さん」

「彼女でもいいわけです」

男は笑う。

「どうです?」

アキは考え…男の手をとろうとした…


「アキ、だめだ、行っちゃだめだ!」

誰かの声が聞こえた。

それから…ギターの音。


そこで目が覚めた。


誰かが止めてくれたような気がした。

誰なのかはわからない。

何故かその人に感謝をし、アキはまた眠った。

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