これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
天使の彫られた扉の向こうの世界の物語。
アキは夢を見た。
みんながいた。
いつものようにみんながいた。
キリエがいて…
ケイとユキヒロがいて…
イチロウがいて…
ナナが…
ナナは笑っていた。
イチロウの隣りで微笑んでいた。
アキは凍っていた。
動けないでいた。
イチロウも微笑んでいた。
幸せそうだった。
(その微笑みは誰のもの?)
アキが問い掛ける。
ナナが答える。
「私のもの」
ナナの顔が奇妙に歪んだ。
「けらけらけらけら…」
ナナが笑った。
気がつくとみんな笑っていた。
「けらけらけらけら…」
(やめて…)
「けらけらけらけら…」
「やめてーっ!」
アキは叫んだ。
ふっと場面が変わる。
「夢魔の領域へようこそ…」
暗いそこへ立っていた男はそう言った。
「夢魔?」
「夢使いと言い換えてもよろしいかな」
ひっひっひ、と、男は笑った。
アキにはよくわからない。
「お望みの夢を見せてあげましょう…たとえば…」
男が指を鳴らす。
幕があがり、スクリーンがあらわれる。
映画館のようだ。
そして何かが上映される。
あれは…
「イチロウさん…と…」
アキだ。
二人が幸せそうに笑っている。
そこにナナはいない。
「いかがですかな?」
男はアキの傍にいた。
「ここに一つサインをいただければ、夢の中で彼はあなたのもの…」
男はまたひっひっひと笑った。
「代償は?」
アキが問い掛ける。
男の笑いが止まる。
「ただじゃやらないんでしょ?」
アキは再び問い掛ける。
男はにやりと笑う。
「命を一つ…ご本人のものでなくても構いませんがね」
「僕のでなくてもいい…」
「そう、例えば…」
一人の女性の顔が大写しになる。
「ナナ…さん」
「彼女でもいいわけです」
男は笑う。
「どうです?」
アキは考え…男の手をとろうとした…
「アキ、だめだ、行っちゃだめだ!」
誰かの声が聞こえた。
それから…ギターの音。
そこで目が覚めた。
誰かが止めてくれたような気がした。
誰なのかはわからない。
何故かその人に感謝をし、アキはまた眠った。