斜陽街三番街。
一番街のバーの路地から、右へ行くとがらくた横丁、左に行くと教会がある。
この教会は荒れ果てていて、誰も住んでいるものはいない…らしい。
時折人影があったという噂も流れる。
草はぼうぼう。
取り囲むように木が茂っている。
入り口らしい扉から中に入ると、屋根が所々抜けて、妙に明るい広間がある。
教会らしく真っ正面には十字架が掲げられている。
ボロボロしてはいるが、一応十字架だ。
ある日。
螺子師は散歩がてら教会にやってきた。
そこで人影を見付けた。
「誰だ」
声をかける。
「誰?」
質問に質問で返された。
螺子師はちょっと拍子抜けしたが、
「僕は螺子師だ」
と、真面目に返した。
すると、
「あなたは螺子師、私は誰?」
さらに訳のわからない質問で返された。
「そういえば…」
思い当たる節はあった。
浮浪者かもしれない。
浮浪者は自分である証を失った者。
誰でもない者だ。
「浮浪者か?」
そう聞いてみる。
「そうかもしれない…そうじゃないのかもしれない…」
曖昧に返された。
「祈るんです…罪が早く癒されるように…」
「罪?」
罪の意識があるということは、浮浪者とは違うのかもしれない。
身なりは普通だ。
浮浪者のようにボロボロしていない。
(はて、この人は一体何者なんだろう?)
螺子師は疑問を持った。
「黒い風…吹いた…」
また断片だ。
黒い風…
夜羽あたりだろうか?そんな事を言っていた気がする。
番外地に黒い風が吹いた。
それ以来人形師が膨れた人形を持ってくるようになった。
胸が張り裂けそうなくらい、強い思いの歌が流れているらしい。
黒い風…
それが原因なんだろうか?
「いつか…罪が…黒い風が消えるその日まで…」
女性はそう言うと掻き消えた。
今までそこにいたのが夢のように。
あとには呆然とした螺子師が残った。
螺子師は頭をぶんぶんと振ると、
また散歩の続きをした。