これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
重そうな鉄の扉の向こうの世界の物語。
レオンは外を見ていた。
霧が晴れ、風が吹き、緑の波が揺れる。
ギアビスは外で洗濯物を干していた。
白い洗濯物が風に揺れていた。
青い空に揺れていた。
しばらくすればレオンという名にも慣れた。
ギアビスはレオンの部屋に来てはいろいろなことを話していった。
「空の向こうには何があるんだろう。君の来た扉の向こうには何があるんだろう」
空の向こうには希望が持てた。
自分の来た扉の向こうは…まだ、何があったのか思い出せない。
何か、自分にとって大きな物があったような気がする。
半身もきっとそこに置いてきたのだろう。
ギアビスはそんな風に考え込むレオンを見る度、
「ゆっくりでいいよ」
と、優しく微笑んだ。
穏やかに日々は過ぎていった。
レオンは補ったパーツの調子もよくなり、家事の手伝いをするようになった。
それでも時々力の調整がうまくいかなくて、義手で鍋を壊すこともあった。
「僕がやることなんだから君はいいのに…」
鍋を直しながら、ギアビスはぷぅと頬をふくらます。
「すまん…でも、何か手伝いたくて…」
「いいの、僕がやることなんだから」
「何か手伝えることは…」
「んー…後で食器洗ってもらおうかなぁ…あー、またお皿割られても困るしなぁ」
「もう割らないから」
レオンは真面目に言った。
ギアビスは耐え切れないように笑い出した。
「お皿洗いでそんなに真面目になることないでしょ」
「そういうものなのか?」
「そーゆーもんだよ」
そう言うとまたギアビスはひとしきり笑った。
「空が飛びたい」
ギアビスは皿を洗いながらそんな事を言っていた。
「君と空の向こうに行きたい」
そんな事も言っていた。
自分をサイボーグにするくらいなんだから、その程度の技術がありそうなものだとレオンは思った。
実際口にした。
「…飛べないんだ…僕は」
ギアビスは苦笑いした。
少し、かなしそうだった。