番外地、探偵事務所の近くに、神屋と呼ばれた店の跡がある。
建物は残っているが、もう営業はしていない。
もともとは、物に宿った神様を扱っていた店らしい。
何でもこの店の主人は、自分だけの女神を見つけて、その女神とともに旅に出たとか。
噂なので眉唾だが、とにかく神屋はもう営業していない。
この神屋のあとに住み着いた者がいる。
近くに住む探偵が気配があるのを不審に思って店に入ってみた所、彼女を見付けた。
探偵曰く、『空っぽの女神』
彼女は虚ろな目をして、遠くを見ている。
その胸は向こうが見える。
穴が開いているのだ。
彼女をはそれでも立ったまま遠くを見ている。
腰に薄い布だけまとっている。
古いギリシアの彫刻のような美しい女性だ。
「埋まらないのです…」
彼女は探偵にそう言ったそうだ。
「ここが…埋まらないのです…」
抑揚の薄い声で話し、胸を指差す。
「埋まらないのです…」
探偵は神屋のあとにある様々のがらくたを、彼女の穴にあててみた。
どれもがそうのようで、どれもが違っていた。
「私のかけら…この街にあるはず…」
「でも、この店の中にはないようだな…」
一通り試してみて、探偵がそう言う。
「焦ってるか?」
「いえ…私は死にませんから…ただ、空虚なだけです…」
「そうか…この街にあるんならきっと見つかるさ」
探偵は彼女を励ました。
彼女は虚ろに微笑んだ。
彼女の言うとおり、彼女は死なないようだ。
探偵の助手が心配して食べ物を持っていったが、
「食べなくても平気です」
と言われ、戻ってきたということもあった。
探偵の言うように、彼女は女神なのかもしれない。
少なくても、普通というものではないらしい。
「私のかけらが呼んでる…苦しんでる…」
彼女は遠くを見たまま呟く。
まだ彼女のかけらは見つからない。