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第27話 人形

番外地、廃ビルの近くに人形師の住まいがある。

ちんまりとした家だが、中をのぞくと、意外にたくさんの人形がある。

人形師は人形を作る。

そして、人形を使って…人をびっくりさせることが趣味だ。

アナトミーに皮膚をかぶせたような不細工なマネキンから、

フランス人形のような整った人形まで。

様々の人形に囲まれて、人形師は生活している。


人形師は初老の男だ。

大きな鞄をいつも持ち歩いている。

人形をしまうための鞄だ。

男が命じると人形はぎこちなく歩いて鞄にしまわれる。

どういう仕掛けになっているのかは、謎だ。


その人形に最近異変が起きている。

その原因は少し前から廃ビルに住み着いた何からしい。

いつも…聞こえるのだ。

「また歌が…」

人形師は忌々しそうに言った。

それは心もはちきれんばかりの崩壊の歌。

崩壊を望む歌。

人形師は歌が聞こえると身体の耳と心の耳を閉ざす。

しかし…

「ジェームス…」

ジェームスと呼ばれた人形は、相撲取りのように膨れてしまっている。

人形は耳を閉ざすことができない。

だからこうして強い思いを身体に閉じ込めてしまうのだ。

ジェームスの他にも膨れている人形がある。

「螺子から思いを抜かないとな…近々螺子師の所に行こうな」

人形師は人形に語り掛けた。

人形は当然答えなかったが、苦しそうに頷いたようにも見えた。


今日もまた歌が聞こえる。

人形師は耳を閉ざした。

その日、人形師の所へ訪ねてきた客は耳を閉ざさなかった。

「平気なのか?」

「何がですか?」

人形師は唇の動きで、この客…羅刹という男の言葉を読んだ。

「崩壊の歌だ。心がはちきれないか?」

「いえ…平気です。何だか懐かしい感じがするくらいです」

「そうか…」

そういうやつもいるのだなと人形師は納得した。


人形師は今日も人をびっくりさせる研究を…したいのだができない。

歌がそれを邪魔しているのだ。

人形師はひっそりと、廃ビルの傍で歌がなくなる日を待っている。

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