あれからどのくらい時間が経っただろうか。
病気屋はふと考えた。
熊のようにもっさりした大男だが、感情は意外と繊細だ。
あれからどのくらい時間が経っただろうか。
病気屋が考えているのは、自分が病気と対峙するのを志してから。
あの少女が…現在の熱屋が。
病気で時を止めてから。
時間はどのくらい過ぎ去っていっただろう。
あの頃は二人何も知らなかった。
そのまま大人になっていけると信じていた。
時を止めた彼女…
自分は彼女に何もしてやれなかった。
自分は病気を扱う仕事に就いた。
彼女の時を戻せると信じて。
それでも彼女の時は止まったままだ。
原因がまだわからない。
それでもいつか…
この膨大な病気の中から…彼女の時を戻す術があると信じている。
不意に、ノック。
「どうぞ」
思考を現在に戻し、ドアに声をかける。
客だ。
「いらっしゃいませ。どのような病気がご入用ですか?それともサンプリングですか?」
客はどうしても仕事を休みたいので、程々の風邪が欲しいといった。
「程々の風邪…ええと、体格から想定しますと…このへんかな」
病気屋はシャーレを取り出す。
中には青と白で出来たカプセルがある。
「これを1カプセル。半日ほどで効果はあらわれます。あまりひどいようでしたら、三番街の薬師を訪ねてください。カルテ作って、処方箋書いときますね」
病気屋はこう付け加える。
「もし熱が出過ぎるようでしたら、ここの隣りの熱屋を訪ねてください。すぐに熱さましをしてくれます」
客がいない時は病気屋は病気の研究をしている。
電脳系や電網系にかかるウイルスではなく、
生体系にかかる病気だ。
いつか…
いつか…
今でも大切な彼女の時間を取り戻すため。
あれからどのくらい時間が経っただろうか。
病気屋はまた考えたが、
熱屋のどこか虚ろな笑顔を思い出し、作業に没頭していった。