斜陽街三番街のがらくた横丁はゴミゴミした通りだ。
配線や配管は剥き出しになっており、
店同士が寄り添うようにして営業している。
どうでもいい場所にダンボールなどが置かれており、通りは余計狭くなっている。
螺子師はそんな、がらくた横丁で営業している。
螺子を扱うのが仕事だ。
螺子師は螺子を扱う。
日用品、機械、螺子があればなんでも扱う。
特殊なものとしては人間自身。
人間の頭の螺子を締めるのだ。
頭の螺子を締めると、考え方が理性的になるらしい。
緩めると、どことなくぼんやりした感じになるらしい。
螺子師はその調整もする。
その微妙な調整が螺子師の腕の見せ所だ。
螺子師には商売敵がいる。
螺子ドロボウという。
螺子ドロボウは頭の螺子を盗む。
螺子に支配されるのがよくないというのが持論らしい。
「本当にほしい螺子はこんなんじゃないんだ…」
螺子ドロボウは螺子を盗む度にそう言う。
螺子ドロボウを追ってきた螺子師と対峙する。
螺子師はいつか螺子ドロボウを懲らしめなければと思っている。
だから追う。
しかし、螺子ドロボウはそれを楽しんでいる節すらある。
「君の螺子が欲しいね…」
螺子師を指差し、ククッと低く笑う。
そうしていつも、螺子ドロボウは闇に消えてしまう。
螺子師は螺子ドロボウの意図が掴めない。
ある時、番外地の人形師が人形を持ってきた。
不格好に膨れた人形に螺子が食い込んでいた。
「番外地の廃ビルから崩壊の歌が聞こえる…」
人形師は言う。
「私は耳を塞ぐ…心の耳も塞ぐ…人形は耳が塞げないから体に溜めてしまうのだ…」
他にも膨れている人形はあるそうだ。
螺子師は取り合えず螺子を緩めて、人形に溜まった思いを抜いた。
酒屋を呼んで思いを持って行ってもらわないと、こっちがどうにかなりそうだった。
そんなこんなでも螺子師は元気に螺子を回している。
今日も螺子師の螺子は、しっかりおさまっている。