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第19話 道化

ピエロットという喫茶店が斜陽街の二番街にある。

斜陽街ではまともな方の店だ。

まず店内に入ると、入店を知らせる小さな鐘がカランカランとなった。

テーブル席が幾つかとカウンター席が幾つか見当たる。

カウンターには旧式のコーヒー豆挽きがちょこんと置かれている。

そして静かに流れるオルゴールの音楽。

有線かCDなのかもしれない。


ピエロットという名前の由来はすぐわかる。

壁にはピエロの仮面や絵が並び、

ディスプレイ用の棚には、ピエロの置物、人形、が並んでいた。

「いらっしゃいませ」

と、声をかけてきた店員も、ピエロの仮面をしていた。


オルゴールの音に混じってギターの音がする。

ピエロットに居ついているギター弾きの音色だ。

前髪を長く垂らしているので表情はわからない。

年齢もわからない。

ただ、どことなく寂しそうだ。


 俺は太陽とはぐれた…

 月にもなれない星にもなれない俺は…太陽にこがれる道化になる…


 あいつがいなくなったあとも

 針は無感動に時を刻む。


 俺はギターを奏でる。

 そして歌う。

 太陽を失った悲しみを。


 道化に囲まれた。この場所で…


オルゴールの音にのって男はギターをかき鳴らす。

感動的に歌い上げる真似はしない。

ただ、淡々と歌う。

それが余計寂しさを印象づけていた。


「アキって言うんだ…」

ある時男は誰に向けてでもなくそう言ったことがある。

「アキはどこかへ行ってしまった…もう、俺のことも覚えていないかもしれない…」

男はピーンとギターの弦を鳴らす。

「アキが俺の太陽だったんだ…」


 太陽にこがれる道化になる…


「どこかでアキに会ったら…」

男はここで言葉を切り、頭を振った。

「いや、いい…忘れてくれ」


 太陽にこがれる道化になる…


「俺は太陽にこがれる道化…太陽は遠くで輝いているのがいい…」

それでも男のギターの音色は寂しそうだった。

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