ピエロットという喫茶店が斜陽街の二番街にある。
斜陽街ではまともな方の店だ。
まず店内に入ると、入店を知らせる小さな鐘がカランカランとなった。
テーブル席が幾つかとカウンター席が幾つか見当たる。
カウンターには旧式のコーヒー豆挽きがちょこんと置かれている。
そして静かに流れるオルゴールの音楽。
有線かCDなのかもしれない。
ピエロットという名前の由来はすぐわかる。
壁にはピエロの仮面や絵が並び、
ディスプレイ用の棚には、ピエロの置物、人形、が並んでいた。
「いらっしゃいませ」
と、声をかけてきた店員も、ピエロの仮面をしていた。
オルゴールの音に混じってギターの音がする。
ピエロットに居ついているギター弾きの音色だ。
前髪を長く垂らしているので表情はわからない。
年齢もわからない。
ただ、どことなく寂しそうだ。
俺は太陽とはぐれた…
月にもなれない星にもなれない俺は…太陽にこがれる道化になる…
あいつがいなくなったあとも
針は無感動に時を刻む。
俺はギターを奏でる。
そして歌う。
太陽を失った悲しみを。
道化に囲まれた。この場所で…
オルゴールの音にのって男はギターをかき鳴らす。
感動的に歌い上げる真似はしない。
ただ、淡々と歌う。
それが余計寂しさを印象づけていた。
「アキって言うんだ…」
ある時男は誰に向けてでもなくそう言ったことがある。
「アキはどこかへ行ってしまった…もう、俺のことも覚えていないかもしれない…」
男はピーンとギターの弦を鳴らす。
「アキが俺の太陽だったんだ…」
太陽にこがれる道化になる…
「どこかでアキに会ったら…」
男はここで言葉を切り、頭を振った。
「いや、いい…忘れてくれ」
太陽にこがれる道化になる…
「俺は太陽にこがれる道化…太陽は遠くで輝いているのがいい…」
それでも男のギターの音色は寂しそうだった。